初恋。ふと、そのことばを思い出した。金井が書いていることばは、初恋そのものというより、初恋ということばを思い出させる。そこには、今ある恋愛、セックスを「初恋」に高める。いつまでもいままでも、「初恋」。
スカートを脱がせてみると
ふくよかな海がある
高低が緩やかな曲線を描き
おもわず触れてみたくなる
指をおく
手のひらをおく
するとそこには
静かに青く光るものが見える
鈍い光ではあるけれど
うすくたなびくように
ひろがっている
ものごごろついたとき
青いビー玉をひとつ
飲んだことがあるの
あまりにキレイだったから
海の色そのものになれるかと思って
きみはそう言って
笑った
いままで流されもせず
ずっとその場所にとどまっていて
きみのカラダの中心に存在し続ける
核のような
海
ぼくがゆっくりと
きみの中にはいってゆくと
あふれでる泉とともに
青いビー玉はまた
鈍く光りはじめた
7行目の「するとそこには」の呼吸がとてもいい。「初恋」そのもの。近づきながら、ふと立ち止まる。そのときはじめて見えるものがある。金井のことばは、そういう瞬間をていねいにすくい上げ、「初恋」を震えさせる。
この呼吸があるからこそ、
青いビー玉をひとつ
飲んだことがあるの
あまりにキレイだったから
海の色そのものになれるかと思って
ということばが「真実」になる。「事実」であるかどうかを超越して「真実」になる。「初恋」とは、そういうものだ、とまた思った。
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