監督 ウォルフガング・ペーターゼン 出演 水
カート・ラッセル、ジョシュ・ルーカス、リチャード・ドレイファスといった人間を押し退けて、水、水、水。水が主演です。脇役はもちろん火。その両方が「敵」というのがいいなあ。水と火は対極にあるのに、そのふたつが戦うのではなく、一緒になって人間に襲いかかる。水のなかで火と戦うなんて、「ポセイドン」でしかありえない。さらに最後の方には風も出てくる。いや、おもしろいですねえ。密室の船の中に展開される大自然。それにほんろうされる人間。巨大な船がひっくりかえり、もう一度ひっくりかえり、沈んで行く。そこで試されるのは人間の肉体だけ。人間のつくった構造物(船)は彼らの命を危険に陥れることはあっても助けることはない。気持ちいいですねえ。このさっぱりとした映画の構造は。
「ポセイドン・アドベンチャー」も悪くはないけれど、今回の作品と比べると水の迫力がやっぱり違う。前作はプールでつくっている感じ、水の量が決まっているという不思議な安心感がある。それに対し、今回のものは本当に海の中という感じがする。水は無限に押し寄せてくる。圧力がじわじわ恐怖のように押し寄せ、下から吹き上がり、上から瀧のように落下し、遠くから激流となって流れてくる。重さと速度が、船内という密室をさらにさらに狭くする。人間ののがれる道はひとつなのに、水は自在に形を変えて四方から押し寄せる。その攻撃力のすさまじさ。
変形自在な水の形態。空間があればどこへでも押し寄せる自在さ。水の中を動く水のスピード。これをリアルに映像化した。これが、この映画の一番のすばらしさ。
あとは、単なる味付け。映像を見せるためのストーリー。構造ですね。
たとえば、水が人間に襲いかからないのは、水の中だけという矛盾。(といっても、水のなかで生きていられる時間はかぎられているが。)水の外へ出るために、いかに水の中をくぐりぬけるか。いかに水の中に生存の手がかりを見つけ、行動するか。このあたりに人間の肉体と知恵をかけたサバイバルのおもしろさがある。そこにお決まりの、愛のために、愛する人間のために自分を犠牲にするという物語りも絡んでくる。愛するひとの心の中に永遠に生きるために死を選ぶという矛盾。……矛盾といえば、最初の船の転覆そのものも矛盾だね。天地がひっくりかえる。なにもかもが逆さまのなかで、逆さまでないもの、絶対に逆さまにならないものは何かを描く。--こう書いてみると、わかるでしょ? 映画がつまらなくなるでしょ?
この映画は、あくまで水の力を生々しく描いて見せる映画です。水の生々しさに感動しなければ映画を見たことにはならない。この映画は、「今、私は水を見ている」ということを忘れさせる迫力で水を押しつけてくる。水を意識しないで見てしまう。水のとりこになってしまう。
すごいですねえ、すごいですねえ。水を撮らせるなら、ウォルフガング・ペーターゼンしかいない、ということでしょうか。急に「Uボート」が見たくなりました。