詩はどこにあるか(23) | 詩はどこにあるか

詩はどこにあるか

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森鴎外「青年」(岩波書店「鴎外選集」第2巻)

 小泉純一が国府津に着いた。ぶらりと歩いている。

ぶらりと停車場を出て見ると、図抜けて大きい松の向うに、静かな夜の海が横たはつてゐる。

 風景の把握に緩急がある。「図抜けて大きい松の向うに、静かな夜の海が横たはつてゐる。」は強靭な俳句の世界を見るような感じだ。
 鴎外は、松を見たのか。海を見たのか。松と拮抗する海、海と拮抗する松を見たのだ。二つの存在が拮抗しながら、同時に融合する。
 こうした描写を、鴎外は非常に素早くやり遂げる。

 ここに鴎外特有の「詩」がある。
 自在なことばの緩急。存在の屹立。しかも、その瞬間に世界が広がり、その広がりが空虚ではなく、充実として押し寄せて来る。