北條裕子『半世界の』の「果てまで」の一連目。
毎日 毎日 雨雪が 落ちてくる
ああ ああ ああ
ここの冬は こんなに 暗かったのか
水底に潜んでいるような
なぜか非常に印象に残った。たぶん、その他の詩のことばと、ここだけが違っているからだと思う。繰り返しと、分かち書き。とくに「ああ ああ ああ」が深い。「ああ ああ」では足りないし「ああ ああ ああ ああ」ではしつこい。多すぎる。
この繰り返しのあとに「ここの冬」「こんな」の頭韻。「ここの」のなかには「こんな」が隠れている。「このような」では重くなる。「こんな」の撥音が「暗かった」の促音と響きあうものを持っている。母音の欠落。繰り返しは過剰。過剰が欠落によって洗い流され、「水底に潜んでいるような」という風景に変わっていく。空中から、水底へ。一行目の「落ちていく」が思い出される。
これだけでいいなあ、と思う。
たぶん、詩を書き始めたころ、ひとは、これくらいの長さ、これくらいの瞬間だけを描いて満足したのではないか、と思う。
これでは「世界」にならない、「半世界だ(半分の世界だ)」というわけなのかもしれないが、「世界」を目指してことばは展開する。しかし、「半分」でもいいのではないか、と思う。残りの半分は、読者に任せればいいのではないだろうか。
「この頃」の三連目。
寄り掛かる 壁は漆喰で
触り続けていると
指に伝わってくる りんごの丸みのようなもの
たわんでゆく壁を 触って
どうにか 息をして
「りんごの丸みのようなもの」ということば、「果てまで」にもでてきた「ような」がとてもいいが、全体的にはリズムがギクシャクしている。「果てまで」にみられた音楽がない。
「触り続けている」と「触って」。「触る」という動詞が二回登場するが、同じ動作(肉体の動き)には感じられない。「触る」が持っているリズムが前と後では完全に違っている。(と感じるのは、私だけだろうか。)
「りんご」は、この詩のなかではもう一度、
りんごの赤の中に しのび込んで あふ あふ 逢う
と登場する。この「あふ あふ 逢う」は、その前の連の、
こもりがちな日々に 顔のないあなたを待つ あふ あふ あう
と呼応しているのだが、「音楽」というよりも「意味」が強い。「触る」に通じることだが、「物語性」がことばを強引に統一しようとしている。もちろん「意味」そのものに詩があることもあるだろうけれど、それには「意味」を追求することばの自立性(自律せい)が必要だろうなあ、と思う。
こんな抽象的なことを書いてもしようがないか。批判にもなんにもならないか。
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