安俊暉『灯草心』 | 詩はどこにあるか

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安俊暉『灯草心』(思潮社、2023年05月17日発行)

 安俊暉『灯草心』は、あとがきによれば「二十一から二十四歳までに記した四年間の日記」からの抜粋である。

私の成すことが神の導きに入っているかどうかである。       (24ページ)

道を求めて生きよ。                      (173ページ)

 ということばがある。「神」と「道」が重なるものかどうか、私にはよくわからない。「神」とは、キリスト(教)を指しているのだが、私はキリスト教徒ではないので、どう語っていいかわからない。「道」ということばで私がいつも思い出すのは、和辻哲郎の『古寺巡礼』である。和辻の父が、和辻に対して、「お前の今やっていることは道のためにどれだけ役に立つのか」と問う。私は、いつも、この和辻の父のことばにつまずく。「道」というとき、そこにはかならず「ひと」がいる。「神」というときも、「ひと」が視野に入っているのかもしれない。
 ただ。
 私は「神」は、どうもなじめない。ひとが「神」を信じるのは、それはそれでわかるが、その「神」を信じるために「教会」があるということが、どうにも納得できないのである。教会によって「神」がひとつに限定されることが(あるいは集団が組織されることが)、何か奇妙に感じられる。ひとの数だけ「神」があって、それぞれのひとの「道」につながる道を、それぞれが持っているかどうか自問するという姿は(あり方は)、私には考えることができるが、それ以外のことは、私には「空想」になってしまう。

議論してはならない。                     (118ページ)

 ということばがある。
 議論しても、どこにもたどりつけないということだと思う。だから、「神」については、私は、これ以上書かない。
 私の印象にいちばん残ったのは、同じ118ページにある、

挫折。
それは私を導いて私本来の道により着実にそわせようとする。

 この二行である。
 「挫折は私を導いて私本来の道により着実にそわせようとする。」ではなく「挫折。/それは私を導いて私本来の道により着実にそわせようとする。」と二行になっている。「挫折」を明確に意識化、対象化して、その上で、「私」との関係をみつめる。そこに、「神」ということばが登場したときにつかわれていた「導く」という動詞がある。「神」と「挫折」は同一ではないが(神が挫折するかどうか、私は知らないが)、そこに「契機」がある。
 そのあとに、とてもことばにしにくいというか「対象化」がむずかしい「より」という副詞が出てくる。それは「着実にそわせる」というかたちで動く力なのだが。
 他の文章(記述)も、正直が書いてあるのだと思うが(想像するが)、私は「挫折」の対象化が「より」を引き出しているように感じ、それで印象に残ったのだと思う。「より」という気持ちがあるから、「挫折」を対象化することになったのか、「挫折」を対象化することで「より」が動いたのか。
 わからないが、ここには何か、安と「神」、安と「道(ひと、あるいはと生きること)」とのあいだにある「断絶」を越えようとする意思が、それこそ「着実」に記されていると思う。「神」も「ひと」も「私(安)」ではない。いわば「他者」と「私」にとっての不可欠な「断絶」(断絶がなければ、「神」も「ひと」も存在しいない)を、自己存在の起点にしようとする正直を、私は感じる。

 


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