中井久夫訳『現代ギリシャ詩選』読む(4)
「窓」。幽閉されている。投獄されているのかもしれない。窓がないかと探し回る。
一つ開いていたらすごい救いだ。
「すごい」ということばをこういう具合につかいはじめたのはいつのころからだろう。私はいまでもどうにもなじめないのだが、中井は「すごく」ではなく「すごい」とつかっている。そこに「文法の破れ」というか、「口語」の卑近さを感じるのは私だけかどうかはわからないが、この「すごい」によって、投獄されている人が「生々しく」見えてくる。気取った人間、私とは別世界の人間という感じではなくなる。
この詩の真骨頂は、このあとの意識の変化のスピードにある。今回の連載では、詩から引用するのは一行だけと決めているので、その急展開のおもしろさを紹介できないのだが、その「急」を予感させる(想像させる)のが「すごい」という粗野なというか、品を欠いた口語である。