高橋睦郎『狂はば如何に』(2)(角川書店、2022年10月11日発行)
差し出だすわが手皺だみ肝斑(しみ)繁み死の匂ひすや汝が手たぢろぐ
わが皺手(しわで)握るすなはち死の側(がわ)に引き込まれむと汝(なれ)怖るるか
「死の声がする」と私が感じるのは、そこに「死」が書かれているからだけとは限らない。私は、その「死」という文字よりも「手皺」「肝斑」という漢字の表記に「死」を感じる。この「死を感じる」という感覚を別のことばで言えば、「音」を感じ、それから自分のなかで「意味」を探し当てる前に、高橋から「意味」を押しつけられるという感覚と言い直せる。「意味」がそこにあるのだ。まず、「意味」があるのだ。この「音」を省略した「意味」、「音」を越えて「意味」に達してしまうスピードの絶対性に「死」を感じる。「生きている」余裕を与えてくれない。「生きている余裕」は、「間違える余裕」と言い直せるかもしれない。私(たち?)は、死ぬまで、けっきょく「間違い」をくりかえす。ああすればよかった、こうすればよかったと後悔する。その「間違い」の連続のなかにきっと「生きている」時間がある。死ぬというのは、そういう「間違える」時間がなくなってしまうことだ。私はいつも「間違えたい」という欲望がある。「間違える」というのは、なんというか、一種の「寄り道」であり、私にとっては楽しいことなのだ。そういう「楽しみ」を高橋のことばは私に与えてくれない。
もちろんこれは、私が高橋の詩を(ことばを)正しく読んでいる、という意味ではない。私はいつでも「間違えている」。間違えてはいるのだが、それは私の教養がないからであって、その間違いは「学校のテスト」の「答えの間違い」であって、私の言う「寄り道」ではない。「寄り道」というのは、私のたどりつくところが「正解」かどうかを気にせずに、ただ、ぶらぶらすることである。高橋のことばは、私をぶらぶらさせてくれないのである。
「意味」が、こっちこっち、と真っ直ぐに私を引っ張っていく。これが魅力というひともいるかもしれないが、私は、そうではなく、「あれっ、いまの音はなんだったのかなあ」と遊んでいたいのである。音を楽しむよりも、「意味」をつかみ取れ、というのは苦手である。
二首目も「死の側」ということばが、とても強い。「意味」でありすぎる。意味の「特定の仕方」が明確すぎる、と感じる。「死の側」の反対には「生の側」があるということになるが、その「側」ということばが「境界線」になって、生と死を分けてしまう。これは、なんとも恐ろしい。ひとは必ず死ぬのではあるけれど、その「境界線」を高橋は意識していて、その意識を共有しろと迫ってくる感じなのである。
高橋のことばには、隅々まで「意識」というものが行き届いている。そのことも「死」を感じさせる。「意味の多さ」が「死」を感じさせる、と言い直すこともできるかもしれない。
**********************************************************************
★「詩はどこにあるか」オンライン講座★
メール、skypeを使っての「現代詩オンライン講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントをメール、ネット会議でお伝えします。
★メール講座★
随時受け付け。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
1週間以内に、講評を返信します。
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円。
★ネット会議講座(skypeかgooglemeet使用)★
随時受け付け。ただし、予約制。
週1篇40行以内、月4篇以内。
1回30分、1000円。
メール送信の際、対話希望日、希望時間をお書きください。折り返し、対話可能日をお知らせします。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。
お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com
また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571
*
オンデマンドで以下の本を発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168074804
(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073455
(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072977
問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com