谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(20)
(裸の足で)
裸の足で
地面に立つ
地球が
頼りない
空の方が
確かだ
生は
蝶
毛虫の
地に
飽きて
空で
星々に
迷う
*
「裸の足」は誰の足か。谷川の足か、蝶の足か、蝶になる前の毛虫の足か。「確か」と「迷う」は、どういう関係にあるのか。「迷う」が美しく感じられるのは「星々」のせいなのか。「地に飽き」たせいなのか。
*
(青空は)
青空は
見つめきれない
無垢な獣の
瞳も
見えない
細やかな繊維を
束ねている
身と心
よじらずに
ほぐさずに
私は
目を閉じて
何を
聞くのか
*
耳を澄ますとき「目を閉じる」のはなぜだろうか。「見つめきれない」「見えない」ものを「見る」ためか。「目を閉じて」「見る」のは美しい旋律か。見ると聞く、目と耳は交錯しながら「宇宙」になる。
*
(意味よりも)
意味よりも
確かに
無意味は
在る
言葉から
逃れる
術はなく
空に
雲
人に人
ただ
白昼の
放心を
無心に代える
*
「放心」と「無心」。「放心」は、まだ「意味」に縛られているか。「無心」は「無意味」か。それとも「絶対的な意味」、つまり「意味」を超絶した「意味」か。確かに「言葉から/逃れ」て考えることはできない。