谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(12) | 詩はどこにあるか

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谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(12)

(有ると無いが)

有ると
無いが
空に
溶けている

雲は
雲の時間を
楽しんでいるから

ヒトは
歴史に
遅れても
いい

子どもに
手を
引かれて

 「遅れる」は、どういうことだろう。「楽しむ」を手がかりにすれば、ヒトはヒトであればいい。「歴史」にならなくてもいい。無名のヒトのまま、ヒトである時間を楽しめばいい。子どもに手を引かれる「楽しみ」。

 

 

 

 

(目覚めない朝を)

目覚めない朝を
夢見ながら
目覚める

天も
地も
不確かだが

知と
情は
生きている

庭の
ツツジの
真紅の
自恃

 「自恃」の意味は? 私は「不確か」を手がかりに考える。「不確か」の反対、「確か」なもの。自分で確かだと信じることができる、頼ることができる。ツツジは「真紅」であると確信し、生きている。

 

 

 

 

 

(黄昏は)

黄昏は
言語を忌む

事実は
薄れ
顕れる
真実

音楽に
なだめられ
数字に
欺かれて

明日の夢を
ヒトは
眠る

 「忌む」。しかし、「忌む」さえも言語にしなければ「忌む」にならない。「動詞」は言語によって仮定され、肉体によって実証される「論理物理学」かもしれない。この仮説を詩は「忌む」か。