谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(10)
(分別の罪を)
分別の
罪を
言葉は
負う
無名に
色はあるか
透明には?
空に満ちる
自然は
無尽
なおヒトは
語と語で
色を
切り分ける
*
「分別(する)」は「切り分ける」と言いなおされ、「言葉」は「語」と言いなおされる。言い直しは「罪」のひとつか。地上の罪はそうやって「無尽」に近づくのか。「語」がヒトを「切り分ける」こともあるだろう。
*
(書いた言葉を)
書いた言葉を
読む
私から離れる
意味
私有できないのに
負う
私
語が
語に絡んで
行
行と行の
間も
私
かな?
*
私がことばを書くとき、ことばが私を書く。私がことばを読むとき、ことばが私を読む。私が谷川の詩を読むとき、谷川の詩が私を読む。どう読んだか、谷川も私も知らない。ことばの肉体だけが知っている。
*
(文字で)
文字で
読みたくない
声で
聞きたくない
言葉の
意味から
滲み出すものを
沈黙に探る
山の
無意味の
静けさ
死に向かう
人間の
無言
*
「静けさ」と「無言」は違う。無言は外面的には静かだが、内面は音に満ちている。山にはいろいろな音があるが、内面は静かである。内面とつながるものしか音にならないと知っているからだ。言う必要がない。