谷川俊太郎詩集『虚空へ』百字感想(9)
(刻々の今を)
刻々の
今を
ヒトは憂い
泣き笑う
内臓の
無言の知を
血に
読んで
内は昏く
外は
明るい
遠近を
問わずに
歩む
*
「知を/知に/読んで」。この「読む」は「読み替える」であるか。私は「誤読」を好む。「精読」「深読み」という言い方もある。「外は/明るい」という改行の、呼吸のようなものが「読む」瞬間に動く。
*
(私が)
私が
終わると始まる
見知らぬ
あなた
言葉がつなぐ
いのち
断つ
いのち
浮き世に
沈む
私
日月に
甘んじて
いる
*
「いる」。私は「いる」か。「甘んじる」という動詞が、人間のように「いる」のか。私が「終わる」、あなたが「始まる」の「断つ」と「つなぐ」のあいだに、ことばにならない動詞が生きて「いる」のかもしれない。
*
(言葉の殻)
言葉の殻を
剥くと
詩の
種子
詩の種子を
割ると
空
何も
無いのに
在る
問えない
答えない
ものの
予感
*
「空」は名詞、「無い」は形容詞。「無」と言えば、名詞になる。どんな違いがあるか。「空」がある、「無」がある、と言えるのはなぜか。ことばがなければ、考えることができない。この「ない」は助動詞か。