自民党憲法改正草案再読(21)
憲法第31条から第40条までは、私はじっくりと読んでみたことがない。犯罪を犯さなければ関係なあ、くらいの意識しかなかった。なぜ、「犯罪者」の権利について、こんなにたくさんの条項を書かなければならないのか。それが、最初に憲法を読んだとき(たぶん小学六年か中学三年の社会の時間)理解できなかった。
いまは少し理解できる。どんな犯罪者であっても更生できる。人間の可能性を信じるなら、更生の権利は保障されなければならない。あらゆる人間は、排除されてはならないのだ。こうした考えに基づいているが第31条以降の条文だろう。
また「犯罪」にはさまざまな種類がある。人が人に対するもの、人が組織に対するもの、あるいは組織が人に対するもの。そして、その組織には「国」もあてはまる。もし、ある行為が「国に対する犯罪」だと指摘されたとき、指摘された人はどうなるのか。「国」からある行為が禁止されたとき、その行為をしたらどうなるのか。その視点から、憲法第31条から第40条までを読まないといけないのではないか。
なぜなら。
憲法は国(権力)を拘束するのものであって、国民を拘束するものではないからだ。第31条から第40条までも、「国に対する禁止行為」であるはずなのだ。そう思って読んでみる。
(現行憲法)
第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
(改正草案)
第31条(適正手続の保障)
何人も、法律の定める適正な手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
「自由」について考えるとき、私が思い出すのは、憲法第12条、13条である。
第12条
この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
現行憲法は「公共の福祉に反しない限り」、国民は何をしてもいい、と規定している。つまり「公共の福祉に反する」ことはしてはいけない。「公共の福祉に反する」と犯罪と認定されることがある、ということだろう。
何が「公共の福祉に反する」のか。第31条だけではわからない。「法律に定める手続き」とあるから「法律」が「公共の福祉に反する」ことを定めているのだろう。たとえば、「殺人」がなぜ「公共の福祉に反する」か。人は助け合って生きる、という基本的な理念に反するからだろう。
この認識は、改憲草案も共有しているのだろうか。
共有していると仮定して、私が気になるのは、改憲草案が「適正な」ということばを挿入していることと、この第31条に「適正手続の保障」というタイトルをつけていることである。
「適正」であるかどうか、だれが判断する? 私は「国が」という主語を補って読んでしまうのである。改憲草案の理念は、国が国民を支配する(独裁を確立する)ことである。国が「適正」かどうかを判断し、手続きを進める可能性があるのだ。現行憲法は、何があろうが法律にしたがって手続きを進める。手続きは法律で決まっているということだろう。その「決まっている手続き」を変更するということが、「改憲草案」では可能なのではないのか。
このことは、第31条だけではよくわからないが、つづく第32条を読むと、恐ろしくなる。
(現行憲法)
第32条
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
(改憲草案)
第32条(裁判を受ける権利)
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を有する。
「裁判を受ける権利を奪はれない」は「国は裁判を受ける権利を奪ってはいけない」という国に対する「禁止条項」である。しかし、この「禁止」につながる文言を消し去って、改憲草案は「裁判を受ける権利を有する」と書き直している。「権利を持っている」からといって「権利が侵害されない」わけではない。権利はいつでも「侵害される」おそれがある。それを「保障する」ためには、「〇〇してはいけない」という「禁止条項」が必要なのだ。「禁止」を削除するということは、「禁止条項」を破る意図があると読むべきだろう。
そこまで考えて、最初に戻る。
もしだれかが国の姿勢を厳しく批判する。大げさに言えば、「革命」を指導する。そのとき、その動きを「国」がどう判断するか。「国を批判すること/革命を起こすこと」は「公共の福祉に反する」わけではない。それは多くの「革命」が証明している。「国への批判/革命」は「国」の考える「公益及び公の秩序」とは違うだろうが、けっして「公共の福祉に反する」ことではない。
けれども、菅や、その前任の安倍は、それを国家に対する犯罪と考えるだろう。管は実際、政府方針に反するもの(批判するもの)は左遷させると言っている。そして、それを「適正」な処分と主張している。これは、国を批判する自由を侵害するものである。管が更迭(左遷)した官僚と、一般国民では行政へのかかわり方が違うが、官僚にしたことは国民に対してもおこなわれるだろうと考えるべきである。第31条にある「自由」の定義を確かめるべきである。管は(安倍は)、それを無視するだろう。
無視するための「根拠」が「適正」ということばであり、その「適正」は、管(安倍)の判断であって、「法律」にもとづく「裁判」の判断ではない。そういう「適正」が横行する危険性がある、と私は思う。
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