自民党憲法改正草案再読(10) | 詩はどこにあるか

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自民党憲法改正草案再読(10)

(現行憲法)
第15条
1 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
(改正草案)
第15条(公務員の選定及び罷免に関する権利等)
1 公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
2 全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選定を選挙により行う場合は、日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による。
4 選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。

 第15条は、国民と公務員との関係を定義している。公務員は国民に代わって「実務」を代行する。国民に共通する「実務」にたずさわる人間だろう。
 現行憲法が、公務員を選定し、及びこれを罷免することは、「国民固有の権利」であると定義しているのに対し、改憲草案は「国民固有の権利」を「主権の存する国民の権利」と変更している。「固有」を削除している。
 なぜなのだろう。
 これだけではわからない。
 「国民の権利」を定義した後、現行憲法も改正草案も、「公務員」を定義している。「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」。ここでいう「一部」とはなにか。思い出したいのは、憲法が「国民→国会(立法)→内閣(行政)」という順序であるということだ。国民よりも「国会(議員)」は数が少なく、「国民の一部」である。「内閣の構成員」はさらに数が少なく「国民、国会議員の一部」である。そう考えるならば、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」は「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、行政機関や国会議員への奉仕者ではない」ということになる。「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」とは、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、内閣の権利ではない。内閣は自分のかってで公務員を選定し、これを罷免してはいけない」ということである。
 しかし、実際はどうか。
 安倍は森友学園事件では、財務省の職員に文書を改竄させている。安倍に奉仕させようとした。改竄を苦にして自殺した職員までいる。菅は学術会議の委員6人を排除した。(学術会議委員は、厳密には「公務員」とは言えるかどうか、私は判断しないが。)そこには「公務員」を「内閣」に奉仕させようとする「意図」が働いている。菅は政府方針に従わないものは異動させる(左遷する)と明言している。公務員を菅への奉仕者にしようとしている。菅に奉仕しない公務員を排除しようとしている。この菅に反対するものを排除するという方針は、国民すべてに向けられることになるだろう。その最初の「排除」は学術会議委員6人の任命拒否という形で実行された。学術会議委員が公務員であろうがなかろうが、排除された。それは、そういうことが国民全員に対して行われることの「前兆」なのである。実際、この学術会議6委員任命拒否問題では、そのことを問うたNHKの穴ウンサーが左遷(異動)させられるということが起きている。公務員だけではなく、国民全員が影響を受ける。そういうことが実際に起きている。
 「国民固有の権利」「一部の奉仕者ではない」は、政府の権利ではない、政府(行政の権力者)への奉仕者ではない、という意味であることを認識しておきたい。公務員が「行政への奉仕者」ではないからこそ、国民には選挙が保障されなければならない。
 現行憲法の「保障する」は「政府は、国民の選挙する権利を侵害してはいけない」という意味である。これを「普通選挙の方法による」と書き直すのはなぜなのか。「選挙」をすれば「選挙する権利」は保障されるのか。そうとは言えない。選挙にはいろいろなことが起こりうる。投票先を「権力者」に指定され、実際に指定通りに投票したかどうかが監視されるということがある。そして、その指示に従わなかったら、不利益を被るということが起きうる。だからこそ、選挙について、現行憲法は「投票の秘密は、これを侵してはならない」という。これは「投票の秘密」(テーマ)についていえば、「政府(権力者)は、侵してはならない」という政府(権力者)への「禁止行為」を定めているのである。
 憲法がこれを「保障する」は、常に「(権力者は)それを侵してはならない」という意味である。「保障する=侵してはならない」である。「保障する」と「侵してはならない」はいつでも交換可能な「文体」である。
 改正草案は「侵してはならない」という政府(権力者)への禁止条項を、行為の主語(政府)を省略して「侵されない」と書いている。動詞の形を「侵してはならない」から「侵されない」とすることで、行為の主語を隠す「文体」に変更している。この「主語隠し文体」へ変更については何度か書いたが、これはすべて「禁止を命じられている存在」(行為の主語)を隠すためのものである。「権力者は〇〇をしてはいけない」という禁止を隠すための文体である。
 憲法は政府(権力者)の行為を拘束するためのもの(ある行為をしてはいけないという禁止条項を書いたもの)であることを、改憲草案は隠し続けるのである。それはつまり、政府(権力者)には「禁止事項」がないということを意味する。もし禁止事項があるとすれば、それは国民がしてはいけないことを定めていると言いなおそうとしている。憲法を権力を拘束するためのよりどころではなく、国民を拘束するための手段にしようとしている。
 「公務員の選挙については」を「公務員の選定を選挙により行う場合は」と書いているのは、「緊急事態条項」と関連するからだろう。「緊急事態条項」では、緊急事態時には選挙が行われない場合があることを定めている。国民固有の権利である「選挙権(被選挙権)」を剥奪する場合があると書いている。その条項と整合性を持たせるために「選挙により行う場合は」と書いている。
 これは逆に見れば、もし改正草案の第15条が認められれば、「緊急事態条項」が認められなくても選挙の制限が可能であるという道を開くことになる。「第7条」を「国会の解散権は首相にある」と解釈するくらいだから、改正草案の第15条を「選挙をしなくてもいい」と解釈するくらいは、簡単にやってのけるだろう。
 「緊急事態条項」に目を奪われて、それ以外の「細部の変更」を見落としてはならない。「緊急事態条項」がなくても、それがあるのと同じことができるようにしようとしているのが改憲草案なのだ。


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