鈴木ユリイカ「二十代の頃」 | 詩はどこにあるか

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鈴木ユリイカ「二十代の頃」(「現代詩手帖」2021年06月号)

 鈴木ユリイカ「二十代の頃」には「第39回現代詩人賞受賞第一作」と書かれている。鈴木もまた旬の詩人ということかな。
 「二十代の頃」、鈴木は「死にたい、死にたい」と思っていた。その後半。

   私は何日も考えた そして
   死にたい、死にたい ではなく
   詩にしたい、詩にしたい と言うことにした

   青空の遠くを漂っている女を詩にしたいと書いた
   玄関を開けると五つの山々がこちらを向いたを詩にしたい
   詩にしたい、山々は雨が降っても美しい
   山々は霧につつまれても美しい
   雪が降っても美しい と詩にしたいと書いた
   犬が笑う と詩にしたい
   笑う警官 と詩にしたい
   めちゃくちゃ自由になりたい と詩にしたい
   言葉をひとつひとつ書いて 詩にすれば
   生きていけるかもしれないと思った

 詩を書きたいではなく、詩にしたい。詩は最初から存在するのではなく、あることばを書き、書くことで詩に「する」のである。
 どうしたら「詩になる」か、「詩にする」ことになるか。
 鈴木は、非常に単純だが、非常に強力な「方法」を教えてくれている。繰り返せばいいのだ。言い換えると、つづければいいのだ。「詩にしたい」を「動詞」にして、その動詞にどれだけ目的語をつけくわえつづけることができるか。その持続力が問題なのだ。
 つづけていくと、だんだんことばが変わってくる。
 「山々は雨が降っても美しい/山々は霧につつまれても美しい/雪が降っても美しい」と鈴木はつづけてみせる。そのあと、どうこれをつづけていくか。「晴れても」と書くか、「花が咲いても」と書くか、「木が枯れても」と書くか。もちろん、そう書きつづけてもいい。
 でも鈴木は、「犬が笑う」「笑う警官」と飛躍する。ことばの射程を広げていく。同じ「詩にしたい」という動詞をつづけることで、山に雨が降ること、犬が笑うこと、笑う警官がいることを、同じ世界にしてしまう。どうして、それが同じ世界? 何が「同じ」と言える? 鈴木の欲望が「同じ」にしている。ぜんぜん違うものだけれど、その違うものを鈴木の欲望が貫いている。
 かけ離れたものを結びつけるのが「現代詩」(あるいは現代芸術)という定義があるが、ただ結びつければいいというものではない。そのかけ離れたものを結びつける「欲望」(個人の肉体の根源)がなければならない。それがなければ、単なる「頭」ででっちあげた仮の意匠にすぎない。
 ここから逆に言うと。
 かけ離れたものへ、自分とは違うものへと自己を拡張していくこと、が詩なのである。そのとき、かけ離れたものの結びつきが「詩になる」だけではなく、それを結びつけたひとが「詩人」という、新しい「人間の可能性」になるのである。
 詩が、そして詩人が魅力的であるとすれば、この「人間の可能性/可能性としての人間」が、ことばといっしょに動いているからだ。
 鈴木のことばが強い(射程が広い)のは、鈴木が生きているからだ。

 

 

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