嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(109) | 詩はどこにあるか

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* (どんなに言葉を忘れていても)


舟は動いている やつてくる
櫓も櫂もなく

 このイメージは美しい。
 川や海のように水が動く場所にある舟ではない。動かない水。けれども、舟は「うごいて」「やつてくる」。
 「言葉を忘れていても」と嵯峨は書くが、「舟」ということばは忘れてはいない。「櫓」も「櫂」も覚えている。
 嵯峨が忘れているのは、ほかのことばだ。
 人間の、ことばだ。何か言いたいことがあるが、ことばにならない。
 けれど、舟が、櫓が、櫂が、ことばになってやってくる。

 


*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
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