森鴎外「里芋の芽と不動の目」 | 詩はどこにあるか

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鴎外選集 第二巻「里芋の芽と不動の目」

私は、この作品の終わり方が大好きである。
主人公が、いわば好きなだけしゃべる。夜の12時になる。
52ページ。

「そうか。諸君は車が待たせてあるから好いが、己はぐずぐずすると電車に乗りはぐれる。さあ、行こう行こう」

このさっぱり感は、漢詩の「私は酔ったからもう寝る。君は帰れ。あした気が向いたら、琴をもってやってこい」に似ている。
気が置けない。
鴎外には、気が置けない仲間がいなかったのかもしれない。
あこがれというものを、この小説に、私は感じてしまうのだ。

ときどき、ああ、この人はなんて正直なんだろうと思うことがある。
何を根拠にと説明を求められると答えに困るが、鴎外先生は正直だ。外国の作家なら魯迅が正直だ。