「どっか旅行いかねっすか♪( ´▽`)」
それがすべての始まりだった。
夏という季節がやってきて、街の人々はどこか浮き足立つ。僕ももちろんその1人だった。
ただ、ガラリと急激にではなく。じわじわと尻上がりに変わる、変わり目の無いその季節に一つ乗り遅れていた。
気付いたらもぅ夏だ。
そして、夏だから何かしなくてはという種の焦燥感を背中に感じ、言葉と気持ちと行動がイマイチちぐはぐな日々を送っていた。
僕は夏を追いかけていた。
そんなある日、昨日寝るのが遅くなってしまい、意識は半分あったが、ベッドから抜け出せずにいた。
時間と共に、さすがに暑さからくる寝苦しさに耐えられなくなり、顔をのそりとあげ、枕元にある携帯に手を伸ばした。
正午過ぎ。携帯のディスプレイをつけるとまず時間が目に入ってくる。
寝過ぎてしまったと後悔をしつつ、その寝過ぎた間に届いていたメールを開き、目を通していると、仕事のそれに混じり届いていた一件のメールに目が止まった。
それまでの纏わり付く様な暑苦しさや、寝起きのだるさを一瞬忘れ、その短いメールの内容を、さっきまではほぼ働いていなかった頭のスイッチをいれもう一度確認した。
「どっか旅行いかねっすか♪( ´▽`)」
その一文は、僕を暑苦しいベッドからやっと追い出してくれた。
ベッドから脱出した僕は、キッチンに行き水を一杯飲み干した後、その勢いのあまり口元に溢れた水を左手で拭いながら、リビングに行き、白いソファに座り携帯で彼に返信のメールを打ち始めた。指を動かしながら、僕は自分の中のあの「ちぐはぐさ」が急に整合性を取り戻して行く様な気がしていた。
やっと夏に追いつける。
そんな気がした。
その後、彼とメールと電話でやりとりをして、インターネットでホテル予約を済ませた。
予想以上に魅力的な選択肢に迷った結果、時間は午後5時過ぎになっていた。
何人か他の友人も誘ったが、急なこともあって、何しろ出発は翌日だったから。
僕は割と急な誘い出しに乗ってしまう人間だと改めて自覚しつつ、勿論いい意味で、結局、彼と2人でいくことになった。
と、
ここまで彼、彼と書いてきたが、彼とは井出卓也、20歳になったばかり、つまり僕の二個下で、後輩であり大先輩であり、良き友達だ。
そしてなにより弟のように可愛い。
仕事の場で会うとしっかりとしているが、プライベートで会うとやはり、二十歳の可愛い後輩だ。
可愛い可愛いと連呼しているが、人を褒めちぎるのは僕の癖でもある。
誤解して欲しくないのは、僕は本当に感じたことを伝えたい、可愛いというのは別に変な意味ではないということ。
ん?
言えば言うほど怪しいって?
まぁとにかく、こうして
「卓也と勝吾の夏休み」が始まった。
つづく
Shogo Suzuki