苦労人の「レオ」 | 将棋大好き雁木師の新将棋文化創造研究所

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「将棋大好き雁木師の将棋本探究」をリニューアルしたブログです。
主に将棋に関する詩などの作品紹介と、自分の将棋の近況報告を行います。

読者の皆様こんばんは。雁木師でございます。今日は書籍のご紹介です。今回は昨年将棋界を沸かせた苦労人、小山怜央(こやま・れお)四段の書籍をご紹介します。

 

 

 

「夢破れ、夢破れ、夢叶う

アマチュア棋士がプロに勝ち、

プロになった話」

のご紹介です。

時事通信社より昨年11月に発売された書籍です。小山怜央四段については、前回の将棋ポエム「編入試験」の記事にて触れましたので下記リンク記事からご参照ください。

 

 

 

 

なお、小山怜央四段は昨日放送されたABEMA地域対抗戦予選Aリーグ2位決定戦1回戦にてチーム北海道・東北の1番手として登場。1局目で久保利明九段に敗れ、その後棋士チェンジされて出番がありませんでした。その後チーム北海道・東北は、広瀬章人九段が4連敗からの5連勝という大逆転を見せて見事勝利し、決勝トーナメント進出に望みをつなぎました。

では書籍の内容に入ります。本書は、小山怜央四段の生い立ちから、いかにして彼がプロ棋士になったのかを振り返る自伝的な内容となっています。5章構成です。

 

第一章「将棋との出会い~奨励会に挑戦

小山怜央四段の幼少期~中学生時代を振り返りながら、将棋を始めたきっかけや全国大会に参加したときのこと、そして奨励会受験に挑戦までの道のりを振り返る内容です。意外ともいえる将棋との出会い、当時の将棋のスタイル、奨励会受験の内容に触れています。

 

第二章「高校入学~東日本大震災

小山怜央四段の高校時代を振り返る内容です。故郷の岩手県釜石市の紹介から始まり、高校時代の将棋について、そして東日本大震災の被災経験を語る構成です。当時はアマ強豪として活躍を見せた小山怜央四段。あの震災からどう立ち直ってきたのかは必読と言えます。

 

第三章「大学入学~二度目の奨励会挑戦

小山怜央四段の大学で活躍した出来事を中心の内容です。大学時代も学生の大会やアマ名人獲得などで実績を積み重ねていく小山怜央四段。二度目の奨励会挑戦は、人生の岐路を経ての戦いでした。この章では、現在大活躍のある若手棋士の名前も出てきます。一体どんな方かは本書を読んで確認してください。

 

第四章「サラリーマン生活~プロ編入試験の受験資格獲得

社会人になった小山怜央四段。ここからプロ棋士編入試験の資格獲得までの道のりを振り返る内容です。小山怜央四段は強豪将棋部を持つリコーのシステムエンジニアとして働いていましたが、棋士を目指すためにその職を辞めました。この出来事は当時話題を呼びましたが、その決断の背景やその後の苦労なども書かれています。

 

第五章「プロへの挑戦

棋士編入試験に臨んだ時の心境を赤裸々に語っている内容です。対局の内容はもちろん、その前後の過程も詳しく丁寧に書かれています。

 

そして巻末には、小山怜央四段の棋士編入試験の対局の棋譜が掲載されています。ぜひ、第五章の物語と併せて並べてみたい構成です。

 

また、合間には小山怜央四段の棋士編入の過程において、お世話になった方々にインタビューするという内容も掲載。日本将棋連盟釜石支部支部長の土橋吉孝さん。編入試験直前に練習相手になった遠山雄亮六段。そして師匠を引き受けた北島忠雄七段の3名のインタビューが掲載されています。

 

 

以上、本書の構成と内容を簡単にまとめてみました。ここからは、実際に読んだ感想を短歌にしてまとめました。

 

諦めぬ

怜央の心を

導いた

「運」という名の

人との「縁」

 

小山怜央四段は本書で「」という言葉を使います。棋士になったのも「運があった」とエピローグで語っています。もちろんご本人の実力はありましたが、実力だけでなく「運」を呼び寄せる人柄も四段編入につながったのではないかというのが個人の感想です。

それを象徴するのが第五章の編入試験第4局。前局に敗れて2勝1敗の小山怜央四段は、プレッシャーに襲われていることが文章から感じ取れました。第4局の相手はこれまでとは違う振り飛車が得意の横山友紀四段が試験官です。本書でも述べられていますが、相居飛車と対抗形では対策の仕方が違ってきます。小山怜央四段も「全員同じ居飛車党の方がいい」と本書で述べられていましたが、相手の得意戦型が変わるということは対策するうえでいかに難しいかは私のような弱輩でも理解できます。

そんな時に救われたのが、将棋大会で出会った仲間たちでした。本書では、アマ強豪の方のお名前も続々と出てきます。振り飛車の得意な仲間たちが練習将棋を買って出てくれたシーンを読んで、人を大切にする棋士なんだということを感じました。インタビューでも「礼儀正しき好青年」という表現があったので、この棋士は「運」だけでなく「縁」も大事にするから棋士になれたんだと感じました。

 

試験官にも「運」の要素が絡んでいました。実は小山怜央四段の試験官は、その前に棋士編入試験に挑戦し、棋士の夢を絶たれた福間香奈(当時里見)女流四冠と同じメンバーでした。これは第四章でも詳しく述べられていますが、編入試験の書類の提出時期にポイントがあったと言えます。小山怜央四段が資格を得たのは2022年の9月13日。試験を受ける場合の提出期間はその日から1カ月です。将棋界では新四段は4月1日付か10月1日付でデビューするので、9月と10月のどちらに提出するかによって試験官は変わってくるということになります。当時SNSでも、小山怜央四段が権利をいつ行使するのかが大きな注目を集めたことは覚えています。

 

小山将棋に関する評価も本書のポイントの1つです。ご本人も遠山六段も、そして北島七段も「終盤に力を発揮する」というのが長所で、弱点は「序盤が甘い」という認識は一致しているのが面白いです。これは小山怜央四段のアマ時代の勉強法とアマ大会とプロ棋戦の持ち時間の違いが影響しているとされています。

小山怜央四段はネット将棋による実戦経験と詰将棋で腕を磨いたと第一章で述べています。ネット将棋は今でこそ当たり前のツールですが、当時の地方の子供にとっては将棋を指すうえでありがたくかつ上達に欠かせないものでした。一方で定跡本や棋譜並べはしなかったという「実戦派」と呼ばれるタイプです。

昔(1980年代)の本で「アマチュア将棋は序盤が甘い」と評したとあるアマチュアの方がいましたが、終盤力重視の風潮が根強い時代にこういうことを言えるのは先見の明であると今なら言えます。かくいう私は、学生時代は(というよりは今も?)先行逃げ切りタイプで序盤で苦戦すると戦意喪失することもありました。単に勉強不足だけだったのかもしれませんが…。いずれにせよ、小山怜央四段の今後の将棋には注目が集まります。

 

 

さて、本書は異色ともいえる経歴の棋士による自叙伝の要素が入った物語です。これから将棋を始めたいという方はもちろん、挫折を味わっているという方、苦しんでいる方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。奨励会を経験した者しか棋士になれないという不文律を見事に覆した棋士は、どんな可能性を秘めているのかという視点でもとても興味深い一冊といえます。回り道をした「釜石の天才」の物語に、ぜひご注目いただき読み進めてみてください。きっと皆さまの考えを変えてくれると思います。

 

 

この本を読んで将棋に興味を持った、将棋が好きになったという声をいただければ、これほどうれしいことはありません。読者の皆様が将棋本を読んで将棋に興味を持つ、将棋が好きになるということを祈念いたします。なお、次回の書籍紹介は3/17(日)を予定しております。

 

今日はここまでとさせていただきます。本日も長文となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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