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実名小説『DAZZLING』 第58話『店名』

マコトは運ばれたきたチーズバーガーをむさぼるように口に入れた。
そして空腹が満たされはじめると、やっと本来の冷静さを取り戻していく自分を感じていた。

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『I would like to go to this place, Is this place known? (この場所に行きたいんだけど…知ってるかい?)』
マコトはチーズバーガーを食べ終えると、さっきの人懐っこい笑顔のウエイターに、住所の書かれた紙を渡し問いかけてみた。
『YOKOSUKA…SHI…HONCHO…2CYOUME…AH…』
ウエイターはゆっくりとそのメモを読み上げるとたどたどしい日本語でマコトに答えた。
『…はい…ここは…たぶ…ん…つぎの交差点を…To the Left …曲がったあたり…です…』
『Thank you …ありがとう…日本語とても上手いね…』
『…いえ…まだ…勉強中…少しだけ…ね…』
ウエイターの答えにマコトはさらに質問を重ねてみた。
『…この住所のあたりに…雑貨屋…Ahhh …Variety store …ありますか?』
ウエイターは少し考えた後、質問に答えた。
『…I don’t know …わかりません…たぶん…なかったと思います…』
『…ない…ないんですか…』
マコトは少し落胆の色をみせた。
ウエイターはそのマコトの落胆を察したのか逆に質問をしてきた。
『…その…バラエティストアで何をさがしてる…ですか?』
『…いや…ちょっと人をさがしています…
この住所でバラエティストアをやっていると聞きました…』
ウエイターはさらに質問をしてきた。
『…その人の名は…なんですか?』
『…オリビア…オリビア・ウエルズという女性です…』
その名を聞くとウエイターは思わず頷いた。
『Oh! …オリビア…知っています…
彼女…確かにその場所に居ました…
ただ彼女のショップ…
今ではバラエティストアではありません…』
ウエイターの言葉にマコトは彼女がいるという喜びから笑顔になった。
『…つぎの交差点を…ひ…だ…り…曲がって3軒目の店です…』
マコトはウエイターにポケットから出した1000円札を2枚渡すと店の出口へと向かった。
『…OH! …おつりをわたします…ちょっと待って…それから…』
その言葉にマコトは振り返らず最後の言葉も聞かずに言葉を返した。
『…Thanks!…It’s your tip …』
マコトはウエイターに言われた通りに店をでた先の交差点を左へと曲がった。
そして手前から数えて3軒目の店の前に立った。
その時マコトの目に飛び込んできた店の看板に書かれた文字に、マコトは何か因縁めいたものを感じていた。
『…こ…この店名は…』
夕暮れの雑踏の中、自分の横を行きかう人々がまるで幻のようにマコトには映っていた…。

実名小説『DAZZLING』 第57話『アメリカ』

『…次は汐入…汐入…
お忘れ物のないようにお降りください…
お出口左側となりまーす…』
マコトは京急電車の車内アナウンスを聞きながら、窓から見える横須賀の街を眺めていた。
『…横須賀かぁ…』
マコトは初めて降りるその駅のホームでふと呟いた。
汐入と書かれたその駅の改札を抜けると、そこから約300mほどの通りが通称ドブ板通り…
スカジャン発祥の地としても有名な商店街である。

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マコトはかつて『BECK』というバンドを主役にした映画で見たことがあるその通りを歩きながら、オリビアの店の住所を探した。
たまたまこの時期、空母が入港していることもあり街は黒人、白人、そして日本人も入り乱れ活況を呈していた。
道行くアメリカ人達の英語を聞きながら、マコトは元々の故郷オクラホマを想い懐かしさで胸が張り裂けそうになっていた。
しばらくの間マコトはこの懐かしい空気を、胸いっぱいに吸い込みたくなっていた。
ふと時計を見ると時計の針は午後2時を回っていた。
マコトは昼食を食べていない事を思い出し、通りの中程にあるバーガーショップの扉を開けた。
店内は昼過ぎということもあり、閑散としていた。
『What is an order? (ご注文は?)』
見るからに人懐っこい笑顔のそのウエイターは、マコトを見るなりメニューを指差した。
『Recommendation is a chesseburger…(おすすめはチーズバーガーだよ)』
『OK,Please give it to me (OK,それをください)』
マコトが笑顔で答えると、そのウエイターは軽く口を鳴らしてカウンターの方へと歩いて行った。
マコトはその様子を見ながらウエイターの背中に声をかけた。
『…and,Daiet Coke,please…(あと、ダイエットコーラもね!)』
ウエイターはそのまま振り向かず右手でOKの合図をすると、マコトの視界から消えていった。
『…ここは本当にアメリカみたいだな…
懐かしい匂いがする…』
マコトはそう呟くと目を閉じ大きく息を吸い込んだ。
マコトの心に優しかった神父さん・シスター…そしてオリビア…たくさんの人々の笑顔が去来していた。
『…いままで俺は…俺は…何をしていたんだ…』
そう呟くマコトの頬に一筋の涙がつたって…それはいつしかマコトの視界を完全に歪ませていた…。

実名小説『DAZZLING』 第56話『オリビア』

『…オリビア…オリビアって誰なの…』

マリの問いかけにマコトは我に帰った。

『…オリビア・ウエルズ…俺の…

俺の姉のような存在の人だ…

ただ…グループホームを出てからもう20年以上も会ってない…

俺より確か5歳年上だったと思う…

当時まだ小さかった俺を本当の弟のように可愛がってくれた…

俺が日本に来てからもしばらくの間…

グループホームを手伝っていたと思う…

彼女もまた孤児だったんだ…』

マコトの答えにマリは続けた。

『そう…あなたの過去を知る人…

ねぇ…そのオリビアさんって…

今…今どこにいるの?…』

『…横須賀…横須賀で雑貨屋をやっているはずだ…』

『…横須賀!…横須賀って日本にいるの!』

マリはマコトの答えに驚嘆した。


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『…確か…もう10年位前…

一通の手紙をもらった…

その手紙からグループホームの移転…

シスターが亡くなった事…

彼女が結婚し…今日本にいる事…

全てを知ったんだ…』

『…全てを知ったって…

あなた…会いにいかなかったの?』

マリの質問にマコトは黙って頷いた。

『…ああ…俺はラック・パーカーを捨てた男だ…

あの頃の俺は自分の過去を…

ミスター・ブラックと揶揄されていた自分を消したいと思っていた…

だから…

だから本当に姉のように俺を可愛がってくれたオリビアにさえも…

不義理をしてしまった…

本当に馬鹿だった…』

『…でも連絡先はわかってるんでしょ…』

『…ああ…

変わっていなければその手紙の住所にいるはずだ…

ただ今更…こんな俺に会ってくれるだろうか…』

マコトの言葉にマリはまっすぐに前を見据えるとしっかりと言い放った。

『大丈夫!…女は強いのよ…

そんな事絶対水に流してくれるわ…

それもあなたのお姉さんだった人でしょ…

きちんと昔の事謝ってきなさいよ…

絶対許してくれるわ…』

マリの言葉が冷たくなったマコトの心に少しづつ沁みこんでいくのを、マネージャーの大塚はカウンターの隅から見守っていた。

『…マコっちゃん…よかったな…』

大塚は心の中でそうつぶやくと黙って店のドアを開け、そっと店外へと出て行った…。

実名小説『DAZZLING』 第55話『望郷』

『…私…スペインに行ってくる…
行ってこの目で確かめてくるわ…』
マリは意を決したように呟いた。

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『…ちょうど来月にスペインとポルトガルに新店舗用の備品の買い付けに行く予定だったの…
その予定を早めるわ…』
そう話すとマリは1本の電話をかけた。
『…私です…来月のスペイン行きの件…
来週に前倒ししてちょうだい…
そう…そうよ…
わかってるわ…大変だってことは…
でも来週のスケジュールは全てキャンセルしてちょうだい…
本当に急で申し訳ないけど…
お願い…すぐに調整して…
事情は後で説明するわ…』
マリはそう告げると電話を切った。
『…すまない…俺の為に…』
マコトの言葉にマリは首を横に振った。
『…いいえ…あなたの…
あなたの為だけじゃないわ…私が…
私が真実を知りたいの…
何でも協力するって言ったでしょ…
これが少しでもあなたへの罪滅ぼしになるかもしれないし…』
『…ありがとう…』
マコトは一言そうマリに告げた。
『…ところで…あなたはこれからどうするの…
何か手がかりになるような事あるの?』
マリの質問にマコトは首を横にふると目を伏せた。
『…何も…何もないんだ…
俺が育ったオクラホマのグループホームは都市開発の影響で、教会ごと移転してしまっている…
俺を最後に見送ってくれたシスターももう10年前に他界した…
もうあれから20年以上経ってるんだ…
当たり前だよな…
こんなことならもっと…
もっと前にオクラホマへ帰っていればよかった…』
マコトはそこまで話すと、ふと何かを思いつきハッとした。
『…そうだ!…ひとりだけ…
ひとりだけ…俺の…
俺の昔を知っている人間がいる…』
『…誰…誰なの?』
マリの問いかけにマコトは天井を見上げると一言その名前を呟いた。
『…オリビア…』

実名小説『DAZZLING』 第54話『和解』

『私…私、サンドラに電話してみるわ…今何時?』
マリは携帯電話を手にとった。
『10時半だ…』
マコトの言葉にマリは頷くとアドレスを探しはじめた。
『…10時半ってことは…
向こうはまだ昼の2時過ぎ…
連絡はつく時間だわ…』
マリはサンドラの電話番号を見つけると急いで電話をかけた。
『…だめだわ…電話番号が変わってる…
It is not used now …現在使われてないになるわ…
やっぱり…私は…
私は騙されていたのかもしれない…』
マリは電話をテーブルに置くとマコトを見つめた。
『…私は…私はもしかしたらあなたに…
あなたにとんでもない事をしていたのかもしれない…
ただ…ただこれだけはわかって…
私にとってもニーナは…
ニーナはかけがえのない友達だったの…
だから…だからこそ…
ニーナを死に追いやったあなたが憎かった…
いや…
そうやってあなたを憎む事で心の空洞を埋めていただけだったかもしれない…
でもあなたの言うとおりニーナが生きていて…
何かの事情で…
私たちを騙しているんだとしたら…
私も真実を知りたい…
許してとは言わないわ…
私が今まであなたにしてきた事…
簡単に許される事ではないこと位私にもわかってる…
ただ…この一連の出来事が終わるまで…
最後まで私にも見届けさせて…
私にできる事なら何でも協力するわ…
お願い…都合のいい話なのは分かってる…
でも今だけ…今だけでも私を許し…て…くださ…い…』
マリの言葉は最後には聞き取れないほどに力のないものとなっていた。
マコトは目の前のグラスを口に運ぶとそれを一気に飲み干した。

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『…マリ…俺はもうとっくに君を許してる…
いや…初めから許すも許さないもなかったんだ…
俺も君と同じだよ…
君から憎まれる事で…
ビジネスの邪魔をされればされるほど…
俺は仕事に没頭できた…
そうする事でニーナのいない心の空洞を埋めていたんだ…
お互い様だ…』
マコトの言葉はマリの心の闇を少しずつ晴らし始めていた…。