宝石の原石かつ天然不思議少女!?岡田史子先生について | きたがわ翔のブログ

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私のブログにてたまに名前の挙がる伝説の故岡田史子先生について。彼女が十代の頃続けざまに作品を発表していたのが私が生まれた頃とほぼ重なる60年代の終わり頃なので、若くてご存知な方は殆どいらっしゃらないのでは?と思います。

 

このたび復刊ドットコムにて作品集が刊行されたのを機にここで私的岡田史子論をぶっちゃけてみたいと思っております。

 

懐かしすぎ!!

 

彼女のデビューは高校生の頃。虫プロ商事が発行していた伝説の雑誌COM67年2月号にて、太陽と骸骨のような少年という7ページの作品で”衝撃的”なデビューを飾ります。

 

一体なにがどう衝撃だったのか?

 

平たく言ってしまえば....それまでに見たこともない全く新しいタイプの漫画であったからです!!

 

 

真っ白な精神病院に居るらしい主人公の少年(青年?)と、看護婦との会話劇のみのショートストーリー。

テーマだけを取り上げるとドイツ表現主義の傑作映画カリガリ博士あたりを彷彿とさせますが、なんつうか二人の会話の噛み合わなさときたら.....

 

 

看護婦が主人公の持っているポートレートを見てどなたなの?と尋ねます。

 

すると主人公は、

 

そうだな それは.....そう例えばダンテのベアトリーチェとか

トーマス・マンのインゲボルグ

ありきたりのでは(ウェールテル)のロッテとか....

要するにそういった類の肖像なの

ぼくにとっちゃこれはただ理想の女というだけじゃない

 

看護婦はキョトンとして、まあ、それではいったいなんなの?再度と尋ねると、

 

わからない

わからないのそれはそういってみればわからないからわかろうとする......

そういったことさ

なんだかわからないからなんだかわかりたいもの

そういうこと

 

このコマ今見てもすごく好き

 

 

てか、わしもさっぱりわかりまへんがなっ!!!!

 

病んでる人のセリフなので仕方のない部分はありますが....文字だけ取り上げるとなんださま〜ずのコントのよう(こらこら)そしてこの作品が当時COMのぐら・こんに入賞した時の選評者である峠あかね(漫画家の真崎守氏)のコメントが本当に本当に素晴らしかった!!

 

 

年少の読者には気取りと自己満足だけの、わけのわからない作品としか見えないだろう。

しかし漫画の形式を借りたこの作品は、いままでまんがでは扱えなかったテーマー人生・希望などーに正面から挑戦している。

岡田さんのこのテーマが、まんがとして完成され表情豊かな漫画の主人公がなめらかに(人生)しゃべりだし、多くの読者がそれを認めた時、作者はまんが界にひとつのジャンルを築くことになるだろう。

 

そのページは大切に保存しております。

 

 

この”なんだかわからない作品”に対し、真崎先生はわからないなりに直感で何かを感じ取ったのだと思います。それはひとえに彼が漫画を描く側で、なおかつ先生が若く柔軟な感覚を持っていたからでしょう。

 

先生の素晴らしいコメントに唯一補足するとしたら、わけのわからない作品、と見るのは年少の読者ではなく、恐らく年長のベテラン読者、または同業者(漫画家)ではなかったかと思うのです。その昔手塚治虫先生が新宝島においてはじめてストーリー漫画の形式をあみだした時、”こんなのはあなただけにしてほしい”と否定しまくった年配の漫画家たちのように。

 

 

新しいものに畏怖を感じるのはいつの時代も変化を受け入れたくないベテラン勢であります。

 

 

しかしこの時の選評者が真崎先生で本当に良かった!!その後約2年あまり岡田先生が作品制作にひたすら没頭できたのは真崎先生のこの嬉しくも力強い激励があったからだと思うのです。後にぐら・こんの選評者になる”あの先生”が岡田作品を批評しなくて本当に良かった!!新人時代、師匠の島田啓三先生に作品を半年間も繰り返し直させられた恨みによりベテランを気取り、酷評して落選させていたはずだと思われ....(ああっ!!わかる方にはバレバレな書き方っ!!)

 

 

 

閑話休題

 

 

 

私が高校生の頃最初に買った朝日ソノラマ発行のガラス玉という作品集。

岡田作品の中でも最も有名なものですが、この中で最も面白いのは作品以上に巻末にある萩尾望都先生が寄稿された(岡田才人のこと)ではなかろうか、と私は個人的に思っております。(な....なんつーことを言うんだお前はっっ!!)

 

モー様や柴門ふみ先生が岡田先生の大ファンであることはマニアの間では有名なお話なのですが、とにかくこのあとがきは面白すぎ!!やっぱモー様恐るべし!!そしてそのなかで萩尾先生はこのようにおっしゃっております。

 

岡田さんの作品のことで野暮なことはいいたくない。そんなことは、読者が個々に感じ入ればよいことだから

 

個・々・に・感・じ・い・れ・ば・よ・い

 

 

私が岡田作品に惹かれるのは、まずその”過激さ”にあります。

 

当時、赤塚不二夫先生などが従来の型を破るかのような過激なギャグ作品を連発しておられましたが、その過激さは読者を笑わせるサービスとしての外向きでボジティブな過激さでありました。しかし岡田作品はその真逆で常に内向きでひたすらナーバスだったのです。

 

漫画は作品と同時に商品であるために常に読者を意識して描くことが普通です。しかし岡田先生は描いたものに対し読者が汲み取れなかったものを説明をする気なんかさらさらない、と常にあっけらかんとした創作態度。

画風もころころ変化し、自分なりの画風の確立にすらあまりこだわっていません。

 

後に飛鳥新社から出たピグマリオンの巻末、岡田先生の書かれた自伝風エッセイを読み、私はしばし考え込んだのでした。

 

う〜ん....こ....この人.....今で言う不思議ちゃんかも.....

 

 

自伝の中で岡田先生は永島慎二先生の漫画家残酷物語を読み、すごいすごいって思ってそれまで描きためていた自称少女漫画は全部燃やしてしまいました、とあり、

 

な....なにも描いたもの全部燃やさなくとも......!!!!

 

ガラス玉より。このおじさんのモデルは永島先生であると思われ。

 

 

総じて彼女の作品は人様にプレゼントするアクセサリーのための宝石を、磨きもしない原石のまま送りつけているような感覚といいますか....

 

ね?私が過激だといった意味がわかるでしょう?

 

 

 

しかしその原石を拾い上げきちんと磨き、美しくカットしたのが後に花開く24年組の方々であったのです!!

 

モー様を筆頭にケイコタン(竹宮恵子先生)、お凉サマ(山岸凉子先生)、大島弓子先生、樹村みのり先生などなどなど....

 

 

 

初期の岡田作品にポーヴレトがあります。

 

この作品の放心したような白目の少年たちの表情は後の大島作品を彷彿とさせます!!

 

 

二人の少年の同性愛を匂わせる関係性はそのまま竹宮作品へ。ペーパーナイフで切りつけるシーンなどは、サンルームにてという作品のなかでほぼオマージュに近いものも.....

 

今のBL漫画を50年前に先取りしている感が。

 

ああっ!!やっぱりサンルームにて、を思い出す!!

そういえば岡田作品には別にサンルームの昼下がりというタイトルの傑作がありましたっけ。

 

 

萩尾先生にいたってはポーチで少女が子犬とという、まるで岡田作品をモー様がリメイクしたらこんな感じの作品になるのでは?といった作品まであります。

 

雰囲気そっくり!!ポーチで少女が子犬とより

 

 

 

そして.....ここでもう一度上記の真崎先生の選評を思い出してください。

 

(岡田さんのこのテーマが、まんがとして完成され表情豊かな漫画の主人公がなめらかに(人生)しゃべりだし、多くの読者がそれを認めた時、作者はまんが界にひとつのジャンルを築くことになるだろう。)

 

 

結局岡田先生は作品の完成にたどり着く前に筆を折ってしまい、拾い集めた彼女のエッセンスから最も早く作品を完成に導いたのは他でもない萩尾先生だったのです。

その完成作こそあの超名作トーマの心臓。

 

岡田先生はこの作品を読み、私が描きたかったのはこういう漫画だったの!!と歯ぎしりしたのではないでしょうか?

 

岡田先生の一連の作品の影響下にあった萩尾先生が努力を重ねてスタイルを完成させ、その下に高野文子先生等様々な作家が連なっていると思うと、漫画を描くものとしてなんだか深く感嘆せずにはおれません。

 

 

そして何度も繰り返しになりますが....

 

ほ....本当に初期ぐら・こんの選評者が真崎守先生でよかったあっっっ!!!!

女に生まれてよかったあっ!!!!(byブルゾンちえみ)

 

 

 

 

えーと最後に....

 

絵の面で一体誰の影響を受けているのか全く謎とされるオリジナリティの強い諸星大二郎先生について。

クソオタの私は岡田先生の影響が少し入っているのでは?と正直勘ぐっているのです。

おいおいどこがっ!?とおっしゃる方、意外かもしれませんが岡田作品のピグマリオンや赤い蔓草あたりの絵を初期の諸星先生の絵柄と比べてみると良いかと思います。諸星先生のデビューも実はCOMでしたから案外可能性はあるかと思います。

 

 

岡田史子 ピグマリオンより

 

諸星大二郎 不安の立像より

 

岡田史子 赤い蔓草より

 

諸星大二郎 海の中より