青春時代とリンクしすぎる!!吉田秋生先生の”河よりも長くゆるやかに” | きたがわ翔のブログ

きたがわ翔のブログ

漫画家です。
仕事や日常生活についてゆる〜く発信していこうと
思っています。

私が中三から高二くらいにかけて、最も好きな漫画家の一人だった吉田秋生先生....

 

出会いはプチフラワー、昭和五十八年一月号。実は彼女の最初の出世作であるカリフォルニア物語や初期の傑作、夢みる頃をすぎてもはこの時はまだ読んではいなくて、実はこの河よりも長くゆるやかにが初めての吉田秋生体験でありました。

 

ああっ!!この表紙今見ても心がざわつきますっ!!ざわ...ざわ....(カイジかっ!!)

 

 

絵を一目見て絶対男性作家だろうと思いました。

実際ペンネームもどこか中性的。体臭を感じさせるような男子校の描写。そしてなにより大友克洋先生の影響をモロに受けていると思われるキャラクター造形。

 

こちらは大友先生、気分はもう戦争より

 

今見ると似てるっちゃ似てるけど、タッチはもっとスッキリしてるしそんな言うほどでも?

当時はもっと似ている人たくさんいたしなあ....

 

 

.....と思いきや、ページ単位で画面を見るとやはりかなり強い大友臭が。

 

 

 

プチフラワーは女性誌なのに、なぜゆえこのような作品が....?

 

 

ちなみに私こときたがわ翔は、この作品が発表される二年前、な・ぜ・か・少女誌別冊マーガレットにて漫画家デビューしておりまして、その頃の少女漫画はすでに目の中にホワイトのきらめきを入れるという時代こそ過ぎてはいましたが、それでも瞳は大きく繊細な斜線を束ねて描かねばならない!という業界ならではの暗黙の了解がありまして、吉田先生のような瞳がただの黒丸でしかも三白眼!!という表現は少女漫画誌ではちょっとありえないことだったのですよ!!マジで!!

 

同年別冊少女コミック3月号にて吉祥天女の連載開始。翌年にはLaLaにてこれまた名作櫻の園を発表....

それらの作品群は私の高校時代とぴったり重なっていて、今でもこの三作品はページを開くたび、あ....あまりに当時のあんなことやこんなことなど思い出してしまい.....(しばし無言......)

 

 

 

閑話休題

 

 

 

しっかし!!もう本当にこの河よりも長くゆるやかには凄かった!!

 

後に私は某男子校に入学しますが(ちなみに男子高校生で運動しながらプロの少女漫画家やっていたのは古今東西私だけであろう!!)河よりも....の男子校描写のリアルさったらもうなかったです!!特に性に興味深々な男子校生特有の下ネタの入り混じった会話やエピソードの数々!!(流石に授業中にオ○ニー始めちゃったり、大麻盗んで吸ったりみたいなカゲキなことはしていませんでしたが....(;´д`))

 

こ....このタイトルの生臭さにはもはや感動すら覚えます....

 

 

こういう男子高校生のねとっとした会話、女性作家が描きますか!?フツー!!

 

 

 

こちらは櫻の園より。おざぶとんにちとせあめって.....はうあ!!

 

 

 

それから当時の吉田先生の描く男子の体つきがいわゆる少女マンガにややありがちな紙っぺらのような体型ではなく、きちんと筋肉がついていて丸みがあって、なおかつ短足(ここがポイント!!)なところも私的にはとっても親しみやすかったのです。

 

じょ....女性なのに男性漫画家よりもリアルな男子校ライフを表現できるなんて一体どーゆー漫画家なんだっ!!

 

 

 

 

しかし、当時私と仲の良かった漫画オタクの友人は彼女の漫画にいまいち否定的でした。

それは.......彼が熱烈な大友克洋ファンであったから。(あっちゃ〜....)

 

まあ....確かにこの時代の吉田先生の絵柄が大友先生にそっくりなのは一目瞭然であって、私ですらかのアニメーション幻魔大戦をはじめて観たときキャラクターデザインは吉田先生だと勘違いしたほど。(実際は大友先生....)

そしてこの頃、ぱふというオタ御用達の漫画専門誌に吉田先生のインタビューが掲載されていて、そのなかで吉田先生がおっしゃっていた、

 

 

私よく大友先生の絵に似てるって言われるんですけど、大友先生の作品って1作品しか読んだことないんですよ。

 

 

どうやらこの言葉にオタク友人は腹を立てていたようでした。

 

あんなに似た絵を描いているんだし、二人が酒飲み友達って噂もあるんだから、大ファンなら大ファンなんですって正直に言えばいいのになんかずるくね!?

 

 

 

その時点ですでにかなりの吉田秋生作品を読み込んでいた私でしたが、まあ、彼の言いたいことはそれなりに理解は出来る。けれど、だからと言ってそれによって吉田先生の作品の価値が落ちるとは思わんなあ、というのが私の正直な意見でした。

 

そもそも私は筋金入りの漫画オタでしたから、こういう言い方はなんですが吉田先生がいわゆるサンプリングの名手だということにはとっくに気付いてはいたのですね。

河よりも...は大友先生のショートピースの影響をモロに感じますし、吉祥天女や櫻の園あたりには山岸涼子先生の影響、短編作品にいたっては高野文子先生の影響etc.....

 

特にその頃山岸先生の影響は顕著で、吉祥天女の小夜子のムードは山岸先生の日出処の天子の太子の描写とかなりダブりますし、特に私があっ、と思ったのは櫻の園の中の一編、花酔いという作品のなかで、子どもの頃大好きだったお兄ちゃんに言われた、ませてるね、って一言にずっと罪悪感を抱いている女子高生のお話。

 

このトラウマ....天人唐草とおなじやん....(私の過去のブログ参照)

 

 

当時私はその時点で既にプロ漫画家でありましたから、プロであっても他の漫画家の影響は確実に受ける、すごい人がいたらなんとか自分の作品にうまく取り入れることはできないだろうかと必死に考える、例えばひとつの連載が終了して次のステップに進もうと思う時、作品に新しさを取り入れたかったらまず誰かの影響を強く受けてみる....

こういったことは正直避けられないって描き手の視点から分かっていたんですよ。

 

実際私も当時吉田先生のエピソードや会話の感じをかなり真似て描いたりしたことをここにて白状いたします!!(おいおい!!)吉田先生!!本当に申し訳ありませんでしたっっ!!

 

 

今はネットの普及により漫画作品のそういったアラを探され炎上したりすることもしばしあるようですが、音楽同様安易なパクリはともかくとして尊敬する作家に対して敬意を表しながらサンプリングする行為は私はアリだと思っております。

実際大友先生と吉田先生を比べますとあの当時絵こそ似てはいましたが、漫画家としての資質は全く別の所にあったような気がします。

 

 

まず大友先生の作風は非常にドライで、基本人間の内面を深く掘り下げることに対しそれほど興味を持ってはいない。

私的に浦沢直樹先生などにもそういった印象を受けます。これはいいとか悪いとかではなくて、登場人物と作者の間に適度な距離がありキャラクターをうんと俯瞰で見ている感じ。決して感傷には流されない大人っぽく理性的なタイプであります。

 

かたや吉田先生は人間の内面そのものに大変興味を持っている。

絵柄は一見クールでドライですが、実は感傷的なネームが物凄くうまい。舌をまくほどにうまい。そして彼女が一流なのは感傷的であっても決してムードに流されず、きちっと作品のテーマを消化出来る器用さをも持ち合わせているところ。

 

 

吉田先生が凄いのは、人間という生き物が普段どんな風に人を愛するか、どんなことに腹を立てるのか、どんな出来事が人との軋轢を生じさせるのか、そしてそれらを解決するにはどうしたらよいのか、そういった繊細な物事、人間の本質のようなものについて常に自分なりのしっかりした哲学を持ち、それを読み手に提示できる所にあると思うのです。それも非常におおらかな優しい視野で。

 

それがあるから彼女はたとえその作品に元ネタがあったとしても、むしろサンプリング元よりも完成度が高い場合が多いのです!!(ひょええええ!!)

 

実際こんな事の出来る漫画家は吉田先生以外どこにも見当たらないのですよ......

 

 

 

そして吉田先生は現在でも第一線でしっかりとご活躍されておいでです。大ヒットして映画化もされている海街ダイアリーにも、相変わらずどこかしらのサンプリング臭(向田邦子?)的なものを感じたりもしますけど、吉田先生が人間そのものに興味を失わない限りこれからも素晴らしい作品を生み出し続けてくれるのではと非常に期待している次第です!!

 

 

最後に....

 

このほどアニメ化にされるという吉田先生って言えばコレでしょ!!という作品、バナナフィッシュを実は未だ私ちゃんと通して読んだことがないのですっ!!むう、な....なぜなんだ?....自分でもよくわからないのですが、いつか読みたくなったら読む、と思いつつ何十年もずるずる月日が経ってしまいました....ら....来年こそは読もうかな....