♫ボギーボギー
あんたの時代はよかった
男がピカピカのキザでいられた♫
79年の沢田研二のヒット曲、カサブランカ・ダンディの有名なワンフレーズです。カサブランカは1942年製作のハンフリー・ボガード主演の映画で、ボギーは彼の愛称。キザで有名なセリフをひとつ挙げるとすると、
君の瞳に乾杯
ぐはあっ!!...た...確かに2017年現在、女子をくどこうとこんなセリフ吐こうものなら、正気!?と一蹴にされそうな感じもしますけど....
閑話休題
みなさま伊予田成子先生という漫画家をご存知でしょうか?
おそらく殆どの方が知らないかと思われます。70年代、24年組を始めとする方々によってパアッと花開いた少女漫画界の陰で地味にぽつぽつと作品を発表していた(主に週刊マーガレット)伊予田先生。以前、木内千鶴子先生の漫画を一晩に何作も読みふけり、その作品の真摯さに唖然とし、くらくらとめまいを覚えた私は、
か....彼女の他にこんな説教くさくもステキにとんがった少女漫画って他にないんだろうかっ!?
と、自分の古い記憶を遡っていたところ、見つけたのが伊予田先生の一粒の真珠シリーズだったわけなのです。
彼女の漫画の殆どはいわゆる冴えないみそっかす系の主人公が傷つきながら成長し(成長...してるかなあ...)ラスト、クラスのキザなイケメン男子とちゃっかり結ばれるという当時の王道パターンでありまして、イケメン男子はあまり描かずに女同士の百合っぽい友情と社会派的テーマをお得意とする木内先生の作風とは微妙に異なるのですが、先生のゴリ押しなまでにメッセージを伝えようとする真摯さはどこか共通性を感じるのですよ。
まず漫画の目次のページを開くやいなや飛び込んでくる先生のメッセージ。
ある日、わたしにとどいた一通の手紙を読んでおもわず涙をこぼした
この人をはげまし勇気づけることはできないだろうか?
そうおもって、このお話をかいた
ー伊予田成子
ううう....この怒涛の真摯さにすでに悪酔いしそうな私。
ストーリーは主人公のサコ(小形幸子)と幼馴染の浩ちゃん(香山浩一)が小さい頃一緒に木の根元に宝物を埋めて、10年後の今日掘り出そう、と約束をするイントロから始まります。
やがて高校2年になった二人。かたやクラス一のイケメンに成長した浩一とニキビだらけの醜女に成長してしまったサコ。(キタキタキタみそっかすキャラ!!)
クラスメイトから便所掃除を頼まれ、常に明るく引き受けるサコ。しかし内心では、
便所掃除か....わたしににあっているのはそれくらい....
おいおいサコ....すこし自分を卑下しすぎではないだろうか??
そんなサコがある日浩一への思いをしたためた出すアテのない手紙を書き、それをビッチなお約束キャラ露木さんに拾われてしまいます。黒板に貼りつけられ、それを見たサコは真っ青になるもおどけつつ必死にしらを切りとおします。
こりゃ相当おネツだよ!
いったい誰だろ顔が見たいよ!
お....おいおいサコ!!お前ルックス以上に心もひねくれていないかっ!?
それはあなたよ小形さん!!
露木さんに証拠を突きつけられ、クラスのみんなはヒソヒソ。追い詰められた挙句ついに逆ギレするサコ。
なにがわかるのよーっあんたたちにーっ!!
ブスだドジだなんていわれてあたしがどんな気持ちでいたか!!
そうよわたしはニキビだらけのニキビ姫よ!!だけど....
わたしだって女の子よ!!どうして男の子をすきになっちゃいけないの!?
わたしがどんなわるいことをしたっていうのよーっ!!
床にうつ伏し泣きくずれるサコ。(ニキビ姫って....)
そして10年後の約束の日、木の根元にやってきたサコは宝物を掘り起こすと、その中から新しく書かれた手紙を発見。その手紙の内容は、
人の悲しみがわからない人のほうがもっとかわいそうだ...
サコの気持ちを知った時正直いってうれしかった
ぼくの気持ちはむかしとかわらない....
はっとして振り向くとそこには浩一の姿が....(これまたお約束)
1コマ目のカット、恐らくおおやちき先生のキャンディとチョコボンボンを参考にしていると思われ。
すると彼はいきなりこんなキザなセリフを吐きます。
サコ....おまえは一粒の真珠だ(おいおい)
かくれた真珠だ....
誰も知らないところでひっそり輝いている美しい真珠だ(おいおいおい!!)
自信を持てよサコ!!
泣きながら浩一の胸に飛び込むサコの姿でエンド。
う〜む....
この作品によって冒頭の手紙を出した少女の心が勇気付けられたかどうかはかいもく見当がつかないのですが、私だったら先生に感謝しつつも、
こんなにうまくいくわきゃねーーーーっつうの!!
って大声で叫んでしまいそうですが。
私は少女漫画家時代、ネームでよく担当編集者にこのように注意されました。
主人公の感情をセリフで説明せずに、なるべくエピソードでみせるようにしてください。
そう!これって漫画を描くうえで基本中の基本なのですが、どうやら伊予田先生はそこを無視してでも高ぶる主人公の感情を寸分たがわず言葉にせずにおれない性分のようなのです。
一粒の真珠シリーズその2、友情ABCのラスト近く、問題を起こしてしまった関谷くんに対し手のひらを返すクラスメイトに主人公高沢けい子が放つ説教話のしつこいまでの具体性がすごい。
全部読むとな....なんだかぐったりします....
なんだと思う?カップヌードルよ、あたりのくだりが個人的にツボです。
この作品は読むと分かりますが、このシーン、あきらかに大島弓子先生のあしたのともだちのラストををパク....参考にしている感じであります。ただしあしたの....のほうは、問題を起こしたクラスメイトの代わりに彼女の小さい息子が学校にやってきて教室の掃除をいそいそとはじめ、それを見たクラスメイトが心を打たれ反省をする、というしっかりしたエピソードでその部分を解決させてあるんですね。さすがは大島先生!!
そしてきわめつけはシリーズその3、みゆきの1ページの中で主人公が飼ってる子犬(ハッピー)がジステンパー(ひょえええ)で死ぬシーン。
わたしが殺した!!
わたしのいいかげんな気持ちが無責任さが
ハッピーを殺したんだ!!
も...もう声に出さんでええやん!!ええ加減胸にしまっとけ胸に!!
とまあ、そんな感じの熱い伊予田先生の作品ですが、彼女の作品に込めたメッセージが真摯であればあるほど不思議とモンドな方向へ向かってしまうという、そんなところも初々しい70s少女漫画の側面&魅力のひとつであり、大いに愛すべきところなのですよ。
そして....私としては死ぬまでに一度でいいから、
君の瞳に乾杯
ならぬ
おまえは一粒の真珠だ!!
というセリフで誰かを口説いてみたいものですよ!!(口説けるかっつの!!)