ぎえーーーーっ
コレ...なんだかお分かりでしょうか?
ゴスロリ風ファッションに身を固めた30歳の狂女岡村響子が、空港で奇声を発しながら徘徊するという、可憐な少女漫画界において空前絶後のサイコなオープニング!!なんとこれこそがお凉サマこと山岸凉子先生の大傑作、天人唐草のオープニングなのですよ!!
金髪ゴスロリ!!
私こときたがわ翔は70年代における萩尾先生、山岸先生、大島先生あたりを筆頭としたどちらかというと少女漫画家の諸先生方たちに猛烈なる愛情、敬意、畏敬の念、そして強い嫉妬を常に感じつつ未だこの業界の末席を汚しているわけですが...
時代というのもあるのでしょう。しかしこの時期にあまりにも...あまりにも傑出した才能がどかっと集中しているのは紛れもない事実でして、はやばやと漫画における多種多様な表現を根こそぎやりつくされた感が....あううう(泣)
そのために80年代以降ににデビューした私たちは、彼女らの残りカスをかき集めて料理するしか作品を作る術がなかった...とか言ったら大袈裟でしょうか?いやいやちっとも大袈裟なんかではないと私は思います!!
閑話休題
で、私が大好きな漫画家五人を挙げるとしたらその中に確実に入るのがお凉サマ!!山岸先生といえばアラベスクや日出処の天子などそのオンリーワンな才能に嘔吐しそうなほどの大傑作があるのですが、今回紹介する天人唐草は読み切り作品でありながらその完成度、衝撃度において群を抜く、黒少女漫画の革命的傑作ではないかと私は考えております。以下あらすじネタバレなのでお気をつけください。
(イヌフグリってどういう意味?)
響子は天真爛漫な少女時代、可愛い花の名前を母にこう尋ねたのです。
(紀子ちゃんたちがイヌフグリっておかしいおかしいって笑うのよ。何か意味があるの?)
お母さんは困惑しながらこう言います。
(そのお花は天人唐草って呼ばれているからそっちのほうがいいわよ。)
(変なの。なんでわざわざそう呼ぶの?イヌフグリがおかしいから?)純粋な子供のセリフ。
突如新聞を読む手を止め父親が大声で怒鳴りつけます。
(いい加減にしないか!!女の子がそんな言葉を口にだすもんじゃない!!)
男尊女卑で世間体を重んじ、性に関しては時代遅れなくらい厳しくも、町の権力者なために自慢でもある父親と、夫に従順な母親の元で育つ主人公響子は幼少期からこのようなカタチで自我を押圧され、父親の目をやたら気にする控えめで内向的な性格に成長していきます。むうう、これって今でいうモラハラってやつでしょうか?
厳格な父とその娘
そのため大人になっても自我が全く育たず、異性の前では不自然な態度しか取れないためにますます袋小路へ陥ってゆく響子。
そのうち母が亡くなり父も急死。しかしそこで大事件が!!父が死んだのはなんと愛人宅であり、その愛人の外見は派手で一見ふしだらな、父親が生前こうであってはならないと常に響子に言い続けた女性像そのままであったのです。あちゃ〜....
響子は絶望します。尊敬する父が本心で望んでいたのがこのような女性だとしたら、私のアイデンティティは一体どこへ向かえばよいのか?
そんな彼女にまたしても悲劇が襲いかかります。通り魔に性的暴行を受けてしまい、そのままついに精神が崩壊してしまうのです。そしてそれが冒頭のプロローグへと....
うわああああこええ!!まったくなんちゅー怖いお話を書くんでしょうか!!お凉サマってば!!
子宮がついていない私などには逆立ちしても書くことのできないお話かと思います。(たぶん)
そして....このあらすじだけかいつまんでみると一見悲劇的な主人公にはそれなりな同情の余地があるように感じます。ところがどっこいこのお話の本当に恐ろしいところは...そのもっと裏側にあるのですよ。
実はこのお話の中で作者ことお凉サマは主人公に対し、父親の異常なパワハラに気づかせようと自分と向き合うチャンスを幾度となく与えてあげているのです。
響子は会社勤めしていたときある男性からこんなことを言われます。
(君は他人の目を気にしすぎてやしないかい?)
結局彼は父親の言う理想の男性像から程遠かったために、その言葉の意味を深く噛み締めるまでには至りませんでした。
常に価値観を他人に委ね、ある意味楽をして生きていこうとする主人公響子。
三船○佳のように逃げることもできたハズなのに....(例えが悪い)
そんな彼女の心の甘え、もとい欺瞞を結局狂気という形でしか山岸先生は許さなかったのでした!!ひいい、マジ怖いっすお凉サマ!!
山岸先生の漫画にはよく自分の人生の選択を他人任せにした結果不幸になるという主人公が出てきます。ホラー漫画の歴史的傑作”汐の声”などもまさにそうです。(こちらの作品もオススメです!!)
でも...こんな重く深淵なテーマ、文学ならまだしもフツー漫画でやりますか漫画で!?
私はこの作品を初めて読んだとき、ついに漫画が文学を超えた!!と正直思ったくらいです。
そしてあの衝撃から数十年、未だに現役で描き続ける山岸先生に私はもはや尊敬の念を通り越して奇声を発することくらいしか出来ませんです!!
ギョエーーーーーーッ!!(ってこれってまことちゃんでは??)