漫画界のミュージシャンズ・ミュージシャンこと諸星大二朗先生の”不安の立像” | きたがわ翔のブログ

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しばらく漫画評論的なブログが続きます....

 

私が二十代の頃一番好きな漫画家はと訊かれて真っ先に挙げていたのはモロ☆先生こと諸星大二朗先生でした!!そう言うとなんだかみなさん怪訝な顔されるんですよね。だってお前と描く作品の傾向とか全然違うじゃん!!というのがどうやらその理由みたいですが。

 

ここははっきり言わせてもらいます!!自分が描ける漫画と憧れる漫画ってのは全く違うのですよ!!私がナインティーン描いていた当時よくツルモクの窪之内先生と並べて論じられることがありましたが、正直私はツルモクをちゃんと読んだことがないし(すみません!!)窪之内先生も私の漫画はそれほど読んでおられなかったのではないかと。得てしてそんなもんだと思うのです。

 

諸星先生といえば天下の高橋留美子先生が大ファンなことで有名です。うる星のキャラクター、諸星あたるの名前からしてそれは一目瞭然です。

高橋先生はるーみっくわーるどという短編集で連載作品とはまた違った意欲的な読み切りをたくさん執筆されておりまして、その中にある笑う標的という作品(大好き!!)が実は今回ご紹介する諸星先生の不安の立像ともう一つ袋の中という二つの短編からかなりインスパイアされているのではないか、と漫画オタの私はふんでいるのです。興味ある方は是非読み比べてみてください。

 

 

諸星先生を語るとき、ほとんどの方はその奇抜な発想力、ストーリーの面白さについて語ります。それは私も同感です。ただ先生の画についての話になるとき、大概のマニアはこんなことを言うのです。

 

諸星大二朗は絵が上手かったらもっとメジャーになれたのに...

 

あーーーー!!もう!!なんということを!!あなた方はな・ん・に・もわかっちゃおりません!!(エラそう)諸星先生の画について評価する方が少ないのに私は少々(いやかなり)不満です!!だって私は諸星先生の最大の魅力はストーリー以上にあの独特な画にあると思っているからです!!

 

諸星先生のデビューはジャンプの第7回手塚賞入選作の生物都市があまりにセンセーショナルだったために勘違いされがちですが、実はそれ以前にCOM誌上にて発表されたジュン子恐喝という作品がデビュー作であります。当時の邦画や昼ドラ色の濃い作品で、諸星作品だと思って読むとやや肩すかしを食らいますが、独特な絵のタッチはすでに完成されていて最近の作品しか知らない方が見てもすぐに諸星作品だとわかります。まずここに注目していただきたいのですが、先生はデビューからおよそ四十数年間、ほとんど絵のタッチが変わっておられないのです。いやもうこれがどんだけすごいことかお分かりになりますか!?

 

昨今のデジタル画ではありえないざらついた線で描かれるまるで泥人形のような人物(ほめてます!)これは諸星ワールドを構築するにあたって必要不可欠なタッチであり、さいしょっっからオンリーワンのものなのです。先生の絵はデビューの頃からすでに新しくなかった(おいおい)かわりにこれからも決して古くなることはないのです!!

 

前置きが長くなりましたが、これまた私のトラウマ作品、不安の立像について語ろうと思います。以下ネタバレ含みますのでご注意を。

 

 

 

主人公は平凡なサラリーマン。通勤ラッシュの喧騒の中ふと電車内から窓の外をぼんやり見ていると黒いマントを被った人(のようなもの)に気づきます。それは毎日線路際に立っており主人公は気になって仕方がないのですが、駅員や彼女にそれを話してもほとんど関心を示しません。

線路の脇に立つ影法師

 

 

何も悪いことするわけじゃなしいたけりゃいさせりゃいいのよ

 

そんなある日主人公は影法師の正体をあばくために彼を尾行します。彼は地下街の暗闇の奥深くへ降りて行き、レンガ壁のすきまに潜ろうとするその瞬間主人公は勇気を出して彼のマントを引っ張るのですが、影法師はそのまま暗闇の中に消えてゆきます。

 

このシーンめっちゃ怖い!!

 

 

 

そんなある日主人公は電車に人が飛び込む現場を目撃します。そしてそこで見たのは影法師が事故現場に素早く駆け寄り自殺者の飛び散った肉片を貪り食うところだったのです!!

 

 

私のような人間がいるところならどこにでも

おそらく東京中のあらゆる線路ぎわに彼ら影はいて

誰かがそのレールの上で死ぬのをただじっと待ち続け

とび散ったわずかな肉片を食い

その渇望がほんのわずかいやされる時をただひたすら待って立ち続けるのだ

 

...餓鬼....(主人公のつぶやき)

 

そして主人公は考えるのです。彼が消えていった地下道の暗闇は私自身の意識の暗闇につながっているのかもしれないと...

 

 

 

私がこれを読んだのは中学生の頃。なんて怖くてかっこいい漫画なんだ!!ってむちゃくちゃしびれましたね!!当時私は夢野久作のドグラマグラにはまっていて、子供ながらにぼちぼちビジュアルのみで怖さを演出する類のものに幼稚さを感じ始めていた時期だったのです。それから諸星作品を貪るように読み、その魅力にどっぷり浸かっていったのでした。

 

暗黒神話、マッドメン、西遊妖猿伝、無面目、数々の短編etc...

 

そしてこの不安の立像に出てくる影法師のキャラクターは数年前から宮崎駿監督の千と千尋の神隠しに出てくるカオナシに似ているとネットで話題になっています。

 

あのですねえ...私のようなコアなモロ☆オタから言わせてもらえればあの世界的評価の高い宮崎さんがどれだけ諸星作品をパク(失礼!)リスペクトしていらっしゃるかなんてことは百万年前から気がついておりますわい!!(断っておきますが私は宮崎さんの大ファンです。念のため。)

 

カオナシとこの影法師は無論のこともののけ姫をはじめて観たときも、むうう、これってどう見たってマッドメンじゃね?って思いましたし、ポニョを観たときも栞と紙魚子に出てくるクトゥルーちゃんがモデルなのだとすぐにピンと来ましたし、(ともにお母さんが巨大という設定まで同じだし...)

 

とにかく言えることは諸星先生はタイトルにもありますようにミュージシャンズ・ミュージシャン、(同業者が憧れる漫画家)の最たるお人であることには誰も異論がないのです。

 

実は私は数年前出版社の方のご好意で、諸星先生とお茶をご一緒させていただいたことがありました。

緊張しすぎて何をお話ししたかはあまり覚えていないのですが、一つ印象に残っているのは、諸星先生はあまり他の方の漫画をお読みにならないらしく、

 

最近になって楳図かずお読んだんですよ。結構自分と同じこと考えてるなって思ってね。

 

むう、やはり漫画界の至宝同士通じるものがあったということですね...(全くもって蚊帳の外の私。てへっ!)

 

そして私は諸星先生の穏やかなお姿を拝見して、誰かに似ている...と感じたのですが、そのときは思い出せず、暫くして何気に水木しげる先生の漫画を読んでいたときに判明したのでした。それは...

水木先生の漫画によく出てくるメガネをかけていていつもフハッ!と言っている人でした!!諸星先生愛しております!!お体に気をつけてこれからも面白い漫画ずうっと期待しております!!