【Day77 2025.11.19 ネグレイラ→サンティアゴ20km】のつづき
(1)から読んでね!
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サイモンに会う前に私はやりたいことがあった。
一つは巡礼者のインフォメーションセンターで、ムシア、フィステーラ向けのクレデンシャル(巡礼手帳)を手に入れること。
一週間前カーリーンとここを訪れたとき、スタッフの人からそのクレデンシャルの話を聞いていた。
サイモンにはいつか歩いて欲しかった。
カーリーンが私にクレデンシャルをプレゼントしてくれたように、私もそれを彼に渡したかった。
もう一つはお金を下ろすこと。
現金が心元ない額になっていた。
お金に困っている彼の前で、ATMに寄りたいなど言いたくなかった。
カテドラルに行きすがら、インフォメーションセンターに寄った。
フィステーラ向けのクレデンシャルはすぐに手に入った。
普通のクレデンシャルは有料なのに、なぜかそれは無料だった。
インフォメーションセンターからカテドラルは目と鼻の先である。
カテドラルに着いてとりあえずサイモンらしき人がいないことを確認すると、マップでATMを検索してそこに向かった。
これまでもやったはずなのに、手続きに戸惑い時間をくう。
その間、待っている人も現れて、譲ったり待ったりしているとあっという間に時間が過ぎていった。
午後2時
やっとお金を下ろすことができて、またカテドラル前の広場に向かった。
雲はあるものの空は晴れていて地面は乾いていた。
こんな日は、何人もの巡礼者が広場中央に座り込んで、感慨に耽っていた。
私はそんな人々の背後に並ぶ建物の前に座り込んで、柱に背を預け、彼らとカテドラルを眺めた。
カテドラルにいるとサイモンに連絡しよう。
そう思ってWhatsAppを開くと、サイモンの近況が更新されていた。
何気にそれを見て驚いた。
最後の更新は、すでにカテドラル前で行われていた。
え?もう着いたってこと?
それはほんの10分前に更新されていた。
彼は動画を撮るとすぐに更新する人だ。
ほんの10分前にはここにいたのだ。
まだいるだろうかとあたりを見回すが、それらしい人はいない。
私はたまらなくなって電話をかけたが、彼は出なかった。
“どこにいるの?私はカテドラル前にいる”
そう送った。
余談になるが、そのままカテドラル前で座り込んでいると、一人の細身の巡礼者がこちらを見ていた。
どこかで見た顔だ。
“君、足痛めていた日本人だよね?サンティアゴに着いたんだね”
そう言われ“はい。つきました”
と答えたものの、誰だか思い出せない。
その人は私がその人のことを思い出せないのを察したのか、“それはよかったね”とだけ言って、隣の柱の下に座り込んだ。
誰だっけ?と記憶を遡る。
そうだ!サカレスの前後、数日間同じアルベルゲだったドイツ人のおじさんだ!
私が足を痛めているのを気に掛けてくれて、二段ベットの上を変わろうか?とか、親切に声をかけてくれた人だ。
しかしそれはもう一ヶ月以上前のことだった。
今更だが今度はこちらから声をかけた。
“あの、どこでお会いしたんだろうって思い出していたんですが、カサレス前後にお会いした方ですよね?”
“そう。ほら君が車道を歩いてしまっていて、歩道に入るためにガードレールを乗り超えて。その時、僕がバックパックを持って...”
恥ずかしい思い出が蘇る。
“今、ゴールですか?
あなたは歩くのがとても早かったのに”
“一回目のゴールはもう終えていて、その後リスボンに行って、ポルトガルの道を歩いて来たんだ。”
そんな人もいるんだと、私は心底驚いた。
カサレス前後は足の痛みがひどかった頃だ。
おじさんも、私がここにいることに驚いた様子だった。
しかし、こうして予想だにしていない人に再会するのがサンティアゴである。
私たちは再会を喜んで、一緒に写真を撮った。
そろそろ行くねというおじさんとお別れして、私はまた柱に背をもたげた。
携帯にはサイモンからボイスメッセージが入っていた。
“今、チェックインを済ませたところ。洗濯や食事や幾つかやりたいことがあるから、終わったら連絡する”
私は、カテドラルで待とうかとも思ったけれど、何もしていないと冷えるので、結局はホテルにチェックインして身支度を整えることにした。
部屋に入るととにかく携帯の電波が悪い。
Wi-Fiもすぐに切れてしまう。
これでは連絡を受けれないではないか。
焦る気持ちが募った。
宿はカーリーンと泊まったホテルを予約していた。
ホテルは一人でも二人でも料金が変わらなかった。
少し迷ったが私はサイモンに、
“私もおなかが空いているから、会ったら食事しよう。
部屋は二人でも泊まれるから、必要ならそうして”と送った。
シャワーを浴びて一息つくと、なんだか疲れて寝てしまった。
起きてからもサイモンからの連絡はなかった。
私のサンティアゴ滞在もそれほど長くない。
やりたいことは色々あったし、電波のよいところにいた方が良いだろう。
防寒を整えるとホテルを出てカテドラルに向かった。
カテドラル内部の見学をしようと思ったのだ。
10年前も見たはずなのに、荘厳なカテドラルの内部は圧巻だった。
正面の椅子に腰を掛けると、しばらくそのままその雰囲気を味わった。
ふと携帯を目にすると、サイモンから“どこにいる?”と連絡が来ていた。
“カテドラルにいる”と返すと“今、行く”と返信があった。
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つづく