長くなったので2話に分かれています。
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【Day74 2025.11.16 ムシア→フィステーラ 29+5km】
“魂の成長は、色々な段階があると思います。
最初に大切なのは、人として善良になること。
人としての成長と魂の成長は、ある段階までは同じだと思います“
朝、メッセンジャーを確認するとそんなメッセージが届いていた。
それは数日前に私が聞いた、“魂の成長とはなんなのでしょう?“という質問に、スピリチュアルのメンターでもある友人が答えてくれたものだった。
ツインソウルという単語が引っかかって調べたとき、“魂の成長が促される”とあった。
それは一体どんなことなのだろう?
そう思って聞いたのだった。
人として善良であること。
その言葉が胸にチクリと刺さった。
サイモンに会おうともがいている私は、善良だと言えるだろうか。
昨夜宿泊したのは巨大なアルベルゲだった。
日に何百人も歩くフランス人の道の公営アルベルゲならわかるが、民営のアルベルゲでこんなに大きなところは初めてだった。
しかも、下のベットはほとんどが埋まっていた。
さすがムシアである。
今日は29km歩いたあと、ゼロポイント地点までさらに往復5km歩く。
早めに出発したかった。
5時過ぎに目を覚ますとひっそりと荷物を外に出して、6時半過ぎに出発した。
外は土砂降りの雨だった。
こんな朝早くに歩き出す人は一人もいない。
何でこんな日にこんなに歩いているんだろう。
今日も同じ問いを繰り返す。
やっぱり当初の予定通り4日かけてサンティアゴまで歩こうか。
ふとそう思った。
朝見たメッセージが引っ掛かっていた。
サイモンとは道でしか会えないかもしれないけれど、その方が正しく、美しいのではないか。
疲れているし、ただ歩くことをこなすだけになってしまっている。
最後の歩きがそれで良いのか?
もう一日掛ければずっと楽になる。
朝はゆっくり出発できるし、歩きを味わうこともできるだろう。
4日かけた場合、どういう工程にすべきか。
今日、宿に着いたら考えよう。
それにサンティアゴ後のスケジュールを考え帰国便も取らなければならない。
そろそろいつ行くか、ベゴにも連絡しないといけないだろう。
私のビザは12月3日までである。
ベゴの自宅はマラガから30km離れた町だ。
サンティアゴの後はタバラとアルフセンに寄り、ベゴを訪問後にマラガに戻って、帰国便に乗れるとスムーズである。
12月直前にベゴのところに寄りたかったのだが、ベゴは28日から30日まで旅行に出かける予定があるのだという。
ベゴの旅行の後に会いに行くのは現実的ではないので、前とすると、、、
思ったより時間がないことに気づいた。
あと3日で歩き終わって、サンティアゴ滞在を1日にしてもギリギリだ。
そんなことを考えていると、夫の家族LINEにメッセージが届いた。
夫の弟の奥さんからだった。
”12月にシズちゃんのお帰りなさい会をやろうと思います“
私と夫は歳が離れているので、弟も奥さんも年上だ。
お義姉さんからは”その日は都合がつかなくていけないの。ごめんね“と個別にメッセージをもらった。
三ヶ月も一人で海外を放浪して、毎日誰かと飲んだくれている放蕩嫁を、こんなに暖かく受け入れてくれる家族がいるだろうか。
サンティアゴ後のスケジュールと言い、日本からのメッセージと言い、なんだか急かされている感じがした。
日本に呼ばれている?
そんな気がした。
午後になると空は嘘のように晴れた。
2時半にアルベルゲのチェックインを済ませ、いつものルーティーンをこなすと、片道2.6km歩いてゼロポイント地点に向かった。
朝の暴風豪雨はなんだったのかと思うほど、穏やかな天気だ。
こんなに暖かいのも久しぶりだった。
岬の先端では岩の上に腰掛けて、太陽を拝みながら物思いに耽る巡礼者がちらほらいた。
ここフィニステーラで旅を締めくくる人は多い。
みんなそれぞれ、旅を総括しているのだろう。
昨日のムシアと違って波は穏やかで、全てを包み込んでくれるようだった。
いつまでも居たくなる気持ちがわかる。
ぐるっと一周、動画を撮るのに後ろを向くと、湾の向こう岸の雲間に虹が出ていた。
私は思わず、太陽ばかりを見ている全然知らない巡礼者に”Hey, look at that!”と声をかけた。
しっかりと太く、色彩がはっきりと濃く多様で、海の中から斜め左に、空に向かってまっすぐと伸びた虹。
私はそんな虹を初めて見た。
あるいは、虹は空から降りてきたのかもしれない。
みんなが太陽に目を向ける中、私は反対側になる虹から目が離せなかった。
雨雲と共に少しづつ移動し、少しづつ薄くなっていく虹を、私は完全に消えるまで見続けた。
ああ、完璧ではないか。
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つづく