【Day21 Camino de Santiago】2025.9.24 小さな手 | ちびタンクのひとりごと

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大好きな旅のこと、心理学・スピリチュアル・ヨーガのこと、日々の気づきなどをつぶやいています♪

【Day21 カストゥエラ→ カンパナリオ 21km】


朝5時

予定より1時間早く起きてしまった。

洗面台の鏡に映った自分の顔を見つめる。

私ってこんな顔だったっけ?


部屋に戻って携帯を見ると前職の関係者からメッセージが届いていた。

かしこまった文面で返信をする。

と同時に、こんな文面を作っていた自分もいたんだと、今の日々とのギャップが奇妙に思えた。

彼女は私の仕事をしていた姿しか知らない。

この文面の私がデフォルトのはずだ。

それにひきかえ、今の私はスペインを自由に闊歩し、ブログでメンヘラを披露する。

そんな私が彼女にはどう映るのだろう?


9月24日

誕生日を二日後に控えて気が重くなる自分がいた。

実家の家族に連絡を取らなければならないからだ。

今回の旅のことは話さずに出てきた。

離れて暮らす母は毎年、誕生日に電話をくれる。

不通となったら心配するだろう。

その前に、状況を姉に伝えておかなければならない。

そんな私を姉が呆れるのは目に見えている。


そもそもこんなタイミングで旅を始める予定ではなかった。

しかし両親の体調が芳しくなく、結果この時期になってしまった。

未だ完全に回復した訳ではない。

年老いた両親を置いて旅に出ることに罪悪感を覚えないはずがなかった。

それは今も続いている。

それでも旅に出たかった。

出るなら今しかなかった。

だから出てきた。

私の弱点である。


田舎で小さな八百屋を営む両親は清貧で慎ましく、絵に描いたような古い考えの人だ。

特に母は保守的で、目立つことや人と違う道を歩むことを嫌う。

娘が夫を置いて海外を1000km以上、一人で呑んだくれながら歩くなんて、聞いただけで卒倒してしまう。

それでもこれが私なのだ。


地元の国立大学を卒業した私は、それまで自慢の娘だったと思う。

でもそうやって母の期待に応えるために、私は何かを押し込めてきた。

それは私を守るものでもあったが、同時にゆっくりと何かを蝕んでいくものでもあった。

そう、それは多分、小学生の時からだろう。

ずっとずっと奥に、閉じ込めてしまったのだ。

でもその子は今も確実に存在している。

そしてこうやって顔を出す。

結局人は、自分自身にしかなれないのだ。


最近、思うことがある。

どんな自分でもいいのではないかと。

仕事モードの私もいれば、旅で自由奔放に楽しむ私もいる。

ブログでメンヘラになる私もいれば、ソファに寝転んでポテトチップスを頬張る私もいる。

夫に甘える私もいるし、自分との約束を律儀に守る私もいる。

旅で出会うたくさんの人のことを大好きになってしまう私もいるし、一人でバーで飲むのが好きな私もいる。

そのどれが正しいとか本当かとか、どうありたいかとかとかではなくて、同時に多面的に矛盾して、複雑に絡み合って存在する。

それでいいのではないか。


旅の日記を書くようになったら、次々に言葉が浮かんでくることに自分自身が驚いている。

それは、小さい頃に押し込んだ、あの子の声のように思えた。

ずっとずっと深く、暗いところから、彼女は小さな手を一生懸命、差し出していたのだ。

私の手を引いて、と。

私の声を聞いて、と。


繋いだその手から紡ぎ出される声の奔放さ。

あなたの心はこんなにも豊かだったんだね。

自由になりたかったんだね。

歌って、踊って、泣いて、笑って、この生を、楽しみたかったんだね。


ふと去年、イタリアを一緒に歩いた作家さんのことを思い出した。

“歩いていると、物語が溢れてくるんだ”

歩きながらファンタジー小説を書いている彼はそう言った。


電子機器を一切持たず、まだまだ旅を続けるという世捨て人の彼を、私は自分とは違う人間だと思った。

しかしもしかしたら私たちは、同じ穴のムジナかもしれない。

現に私はこうやってまた旅をし、今は思いの丈を描いている。

彼は今もヨーロッパ中を放浪し、ファンタジーを描き続けているだろう。


いや違う。

私には帰る場所がある。

旅をする私と家族を思う私が、同時に存在しても良いのだ。


奇しくも、彼と出会ったのは1年前の今日だった。

そして去年の誕生日はそんな彼に、美味しいカルボナーラを作ってもらったのだった。


今年の誕生日は一体どんなふうに過ごすのだろう。

ベゴとマルセルと合流しようか?

ベゴは毎日連絡をくれる。

私が相変わらず一人だというと、合流しなさいと言ってくれる。

誕生日だと言ったら盛大に祝ってくれるに違いない。

それは楽しくて幸せな時間になるだろう。


あるいは、小さなあの手と私だけでひっそり迎えるのも良いだろう。

あの子の声をゆっくりと聴く。

それはきっと特別な日になるはずだ。


まだ時間はある。

ゆっくり考えればよい。


姉に、旅に出ていることを告げよう。

まずはそれからだ。


久しぶりに雲が存在感を見せる朝だった。

日の出前の朝日が反射した雲は、まるでフラミンゴのように、美しいオレンジピンクに染まっていた。


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そんな今日の旅の様子はこちら↓