2019年12月29日
まだ日が昇る前の海辺に向かった。
ロンドンに戻る前に、どうしてももう一度、ドーバーの海が見たかったのだ。
水色とピンクが混在する空に、幻想的な雲が広がっていた。
昇る日の光に晒されて、雲は徐々にゴールドの光に包まれていく。
それはまるで、教会の天井に描かれた絵画のようだった。
そしてそれは、ドーバーで初めて見る日の光でもあった。
人気のない海辺で、私はなおさんが墓石の前で歌ってくれたアメージンググレースを聞いた。そして歌の会で皆んなで歌った「翼をください」を大声で歌った。
いよいよ地平線に日が昇るころ。
そろそろ駅に向かわなければいけない時間が迫っていた。
ふと思いつき、私は波打ち際ギリギリまで歩いた。
そしてその旅でずっと持ち歩いていたグレーの小箱の蓋を開けると、その中の二片のうちの一つを手に取り、打ち寄せる波に流した。
きぬママのお骨だった。
”また来るからね。“
そう告げたとき、日の出がちょうど終わった。
私は駅に向かい、ロンドン行きの電車に乗った。
電車の中、なぜか胸の動悸がずっと治まらなかった。
ーーー
↓前回のお話


