私の2016年は仕事探しから始まった。
その傍ら、無職の私はしょっちゅうきぬママのお家に遊びに行っていた。
ちょうどその頃、きぬママのお手伝いさんをしていた妖精さんが長期で入院することになり、2月3日、4日と検査入院するきぬママに、私とピアニストの礼二郎さんが付き添うことになった。
二日目、着替えをするからと礼二郎さんを部屋から追い出すと、きぬママは小さくなった身体を隠そうとともせずに私にこう言った。
“ずいぶん痩せちゃって。
ほうら、こんなに弛んで。
よく見ておきなさい。
年を取るってこういうことよ。”
クリーム色のカーテンの隙間から淡い日の光が差し込む病院の個室で、ぶかぶかの肌着を身に纏うきぬママは、とても頼りなかった。
それでも生涯、声楽家として生き抜いたその声は86歳とは思えないほど力強かった。
検査入院の結果は年相応の経過観察だったこともあり、その日が近づいているなんて、その時の私は微塵も思わなかった。
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↓前回のお話