イタリア歩き旅は決して楽しいものだけではなかった。むしろ厳しいことだらけだった。
まず、宿問題にぶち当たった。
同じヨーロッパの巡礼路といえばカミーノ・デ・サンティアゴがある。
世界中から巡礼者が集まるカミーノには、どの街にもアルベルゲという格安の巡礼宿があった。
約一ヶ月半の旅の中で、私は一度も宿の予約をしたことがなかった。
それはつまり、“ここまで歩かなければならない”という制約もないとうこと。
限界まで歩いても良いし、早めに切り上げても良い。
その日の気分や体調で、進む距離を決めることができた。
それに比べ、今回のイタリア路にはほとんど巡礼宿がない。あったとしても12月はシーズンオフで、そもそも開いていないというのが現状だった。
最初のうちは、行けばなんとかなるだろうとタカをくくっていた。
しかし初日からたどり着いた町には全く宿がなく、野宿の覚悟を決めたほどだ。(結果、乗馬場兼レストランのようなところがコテージを経営していて、直談判して泊めてもらった。)
その後も、街に着いてからの宿探しには苦戦した。重いバックパックを背負いながら20km以上歩いた後で、あるともないともわからない、しかもなるべく安い宿を探すというのは、体力的にも精神的にも限界があった。
それで5日目くらいからは、どこまで歩くかを決めて、比較的安い宿を数日先まで予約することにした。
行き当たりばったりの自由度は奪われるが、連日、野宿と隣り合わせでビクビクするよりはマシだろう。
次に、道がわからないという問題も大きかった。
スペインのカミーノは巡礼者が迷わないように各所に黄色の矢印が示されている。
ヴィア・フランチジェナも同じようにVFというサインがあるのだが、これがわかりにくい。
サインを見つけても矢印ではないので、左右どっちに進むめばよいのかがよくわからない。
さらにイタリアはたくさんの街道が入り組んでいるらしく、複数のサインが印されていたりする。
今回がイタリア路初めての私には見分けがつかず、山の中でサインに従っていたら実は同じ道をぐるぐる回っていて、遭難しそうになったこともあった。
これにも懲りて、maps meというオフラインでも使える地図アプリを利用して歩くことにした。
しかしこのアプリも曲者で、橋がない川を渡るよう指示されたり、ぬかるみという表現では生ぬるい巨大な泥道を抜けなければならなかったりと、なかなかに手強い敵が用意されていた。
さらに犬問題にも悩まされた。
イタリアでは大型犬を飼っているお宅が多く、その吠える声が尋常ではない。
車社会なのはイタリアも同じで、さらに地方は一軒一軒の敷地が広い。そんな中、歩き旅ではおよそ近所の人でさえ歩かないようなところも通る。
「こんなところを歩く人間なんて、おまえ不審者だろ!」と犬が騒ぎ立てるのも無理はない。
鎖に繋がれてはいるものの、私を察知すると全力で向ってきて、塀越しに大声で吠えまくる。
突然浴びせられる耳をつんざく怒号には、毎回怯えさせられた。
ある時はなんと鎖が外れていて、私をめがけて犬が庭から飛び出して来た。
幸いその犬は遊びたかっただけらしく、尻尾を振って私の先を歩いては、“こっちに来い”と言わんばかりに振り返る。
愛らしく感じていたのも束の間、とうとう大通りに出てしまった。
鎖の外れた大型犬が車道に飛び出したら危ないと、私と通りすがりのイタリア人たちとで、その犬の捕獲に奮闘するという珍事件に発展した。
誰かが通報し、アニマルコントロールがやって来てやっと一件落着かと思いきや、捕まえたその瞬間に犬が飛び出して、車に轢かれてしまうという悲劇に終わる。
(犬はすぐに病院に運ばれた。後日、命は助かり、飼い主もわかって無事に家に帰ったと、一緒に捕獲に奮闘したイタリア人が教えてくれた。)
イタリア旅の前半は、とにかくそんな感じで困難ばかりだった。
ーつづくー
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↑なんとか泊まれた初日のコテージ
↑勘弁して〜、と思う。
↑ぬかるみ
↑サイン。どっちやねん!
↑これはわかりやすい
↑みんなでわんこの捕獲
↑サインもいろいろ
↑こんなサインもある
↑これを渡れと?
↑いや、これは無理だろ?と思う。(渡ったけど)
↑印象的だった塔
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