パンケーキ (ショート・ショート) | GOLDSUN SILVERMOON

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西洋占星術 紫微斗数占星術を使って運勢を観てゆきます。

帆船のギャレー(厨房)では大抵コウかステラが何か調理する。
コウはともかく、ステラが意外と料理が得意とは
思いもしなかった。エストリアで腕を振るった時に初めて知った。
彼女は母一人子一人で育ってきたので生活力があるのだ。

ただ種火を点けるのは俺の仕事。
だからギャレーで何か飯ができるとき
いち早く知るのは俺だったりする。

「リーディ火を点けて」
呼び出されて俺は黙って点火する。
何を作るんだ?興味津々だけどそれをおくびにも出さずに。
左手人差し指に種火を点して、俺はコンロの燃料に近づけると
すぐに赤々とそれは燃え上がった。

「ほら」
「ん、ありがとう」

ステラは手早くコンロにフライパンを置いて
あらかじめ混ぜておいた生地を流し込む。

ふーん
パンケーキか。

「このコンロの火加減が難しくってね。」

そう言いつつ香ばしい香りがするきつね色に焼き上げたそれはうまそうだ。
1枚2枚とどんどん焼きあがるパンケーキを皿に積み上げてゆく。
つい俺はその焼きあがった色と匂いに負けて1枚手を伸ばして齧り付く・・・。

「っ!」

熱ッ!けどうまい。カリッとしていて中はふわっとした食感。


「あ!!つまみ食いしたわね!」
案の定目くじら立てて怒り出す。

「火点け代。けちくせぇな。こちとらいちいち呼び出されて火付け役しているのに。」
「あんたの考え方のほうがけち臭いじゃない!」
「あのなー・・・種火を出すのって簡単そうに見えて結構技術がいるの知ってるか?
その代金だと思ったら1枚や2枚。」
「そうだけど、全部焼きあがってから均等に分けようと思ってたのッ。」

はー。ほかの奴が同じことしたらここまで怒らないくせに。
って言ってもしそうなのはメイくらいか。
メイだったら「えへへ~おいしそー」とか言って食べたところで
「仕方ないわね。」で終わる。確実に。

にしてもつまみ食いのバツなのか唇を火傷していて、
それにアイツも気が付いたのかこう言った。

「・・一番上のなんて焼きたてで熱いに決まってるのに何やってるの・・・?」
見ればわかるだろうにとあきれた口調でいうのでつい本音が出た。

「こんなにうまいんなら一番うまい焼きたてが一番いいだろ?」

するとアイツの顔が急に柳眉を吊り上げた顔から
あっけにとられたようなぽかんとした顔に変わる。
へ??なんだ?

するとおずおずと
こう問いかけた。

「・・・そんなにおいしそうだった?」
「あ、まあな。半分無意識だったんだよ。うまそうなものがあって
つい手が伸びたっていうか。」
「・・・。」

アイツはバツの悪そうな顔をして再び無言になり、
そして焼く作業を淡々と進める。

「できた。」

ボウルのタネが無くなり
彼女は焼きあがったパンケーキを6つの皿に分けてゆく
あれ?一つだけ多めのがある。

「そんなに好きなら、リーディにその皿あげる」

ステラはしれっと言う。

「え?」
「火を点けてくれたお礼よ。」

こちらも向かずにさっさと運んでと言わんばかりに。
でも俺はついニヤけてしまった。

「わりぃな」
「・・・有難く食べなさいよ・・・。」


皆で甲板でお茶の時間。
メイの「ずるーい!リーちゃんだけ多いーー。」という声がする。
俺はすかさず「火点け代だ」と返す。

そして、いそいそと俺の皿の一枚目を食べると
・・・・・・苦い?

「ごめん、焦げたのあんたの所にまわしちゃった。」

ステラはふふんと俺の苦い顔を見て鼻で笑った。


・・・畜生。


でも、あとは美味しく焼けていたものばかりだったから、良しとしよう。



※ロディアーニで頂いた船で。メイも具合よさそうだからリンデルを出発した後?
だからお皿は6枚なのです(プリオールの分)
タネはベークソーダ(重曹)も入ってるのでふんわり。ハワイアンパンケーキに近い。


ギャレーシリーズ楽しいので気が向いたら書きます。