REALIZE 7  | GOLDSUN SILVERMOON

GOLDSUN SILVERMOON

西洋占星術 紫微斗数占星術を使って運勢を観てゆきます。


緩やかな薄茶のウェーブが優しく揺れる。
ここまで必死に走ってきたのか息が上がっていて、シルクのシャツの血痕が生々しく
先程の彼女の負傷が尋常じゃないことを物語っている。

「何か?」
「あの・・・突然で申し訳ないのですが、旅の方。
あなたは魔法国家スフィーニの方ですよね?」

俺は砂漠越えのためのカンドーラ※を身に着けていた。
その為だけでなく、身体を全部覆うそれは、
自分の身なりを目立たないようにする意味もあった。

何故ならしのびの旅だからだ。これでも一国の王子であるが所以である。

でも何故・・・俺がスフィーニの人間だとわかったのだろうか?
その怪訝そうな表情を読み取って、息を切らしながらこう言い続けた。

「そのゴトラ(頭にかぶっているスカーフのようなもの)の裾の模様・・・スフィーニの紋様ですよね?」

そう。ゴトラの裾にはスフィーニの唐草紋様が刺繍されていた。その時
やはりそこそこの身分の者なんだなって俺は確信した。そんな細部のことは普通の
市民だと気が付かない。

「…単刀直入に申し上げると、先ほどの準決勝で闘って撃たれた選手がいましたよね?
彼女、僕の大切な人なんです。医者は物理的治療じゃ限界がある。誰か観客の中に
回復魔法が使えそうな人を探して急きょ治療をしてもらわないと・・・命が危ないと。」
「!」

しかし俺は一瞬躊躇した。俺は失語症になってから一度も呪文を詠唱していない。
詠唱できなかったのだ・・・。

「お願いです、一刻の猶予もないのです・・・!」

彼の必死な形相に・・・そして俺も彼女が気になったので
黙って頷いて、彼に付いて行った。



*                      *                       *



救護テントの中には医者と彼の友人らしき何名か。
そして・・・例の不思議な髪色の彼女がいた。
遠めだと銀に見えて・・・亜麻色にも見える。頭髪の色
女性らしく少し膨らんだ胸が包帯でしっかり巻かれているが、止血しきれておらず
血が止まらないようでどんどん包帯が赤く染まってゆく。

「先生、スフィーニの方を。」

ウェーブの青年が医者に俺を紹介する。

「緊急時なので初対面ですが直ぐ本題に入らせてもらいます。弾丸が彼女の心臓
スレスレの動脈をかなり傷つけている。このままでは失血死だ。
急きょ回復呪文をされたいのだ。」


当の彼女は。かなり青白い顔で・・・呻いている。
そして何やら・・・うわごとを言っている・・・。

「かぁ・・・さん・・」

その時俺は自分の亡くした肉親を重ねたのか。
妙な使命感が湧いたのだ。

―早く彼女を救わなければ!!

自信はなかった。よりによって得意ではない回復呪文だ。
もしかしたら・・・無理かもしれな・・・いや、絶対救わなければ・・・!
遺される悲しみをよく知っている俺だからこそ・・・助けなければならない。

俺は覚悟を決めて彼女の患部に両手を翳し、詠唱を始めた。


  水と風の聖霊よ、我を求めしめたもうは・・・約されし癒し。
   この者の疵を塞ぎたもう・・・。



俺は丁寧にゆっくりと、でも強い祈りを込めて詠唱をした。
淡い緑の光が傷口を優しく包む・・・


でも油断はならない。気を抜くと傷口からまた血が噴き出しそうだ。

俺は脂汗を搔きながら、詠唱を続けた・・・。





*                 *                 *



―レイラ・・・俺をこの北の大地に誘ったのは・・・

俺の魔法の能力を復活させるきっかけを与える為だったのか??



俺はすでにこの街を後にしていた。
ここへレイラが誘った意味がなんとなく分かった気がしたから・・・。


―そう言えば、彼女の名前を訊かずにいたな・・・。そんな余裕もなかったか。

俺は苦笑した。
少なからずとも、あの彼女のことは気になっていた。

最初男かと思ったら、女だったこと。そして魔性と同じ
銀の髪と紫の瞳・・・。見事な槍術の腕前・・・。

一度も言葉も交わさずに。

深い印象を与えた・・・彼女。




そう思いつつ何処へ向かおうか、
一旦プシュレイへの路を戻っていた矢先だった。



「待って!!」

近づいてゆく、速足の音・・・。



呼ばれて振り向くとそこには、今しがた考えていた「彼女」が居た。



 ※現実世界だとUAEやサウジアラビアの男性の衣装。使わせていただきました。