「お米と野菜」
この2つを多く摂るあり方は
“伝統食”
と呼ばれています。和食と言ったりもするのですが、それはこの地に長く根ざしてきた食のあり方。
何世代にもわたって、遺伝的なチェックを受けてきた。そんな最も合理的かつ、最も安全。そんな食のあり方こそが伝統食。
このように言えるのではないでしょうか?
これに対して、最近の流行りは
「糖質制限食」
タンパク質・脂質の多い食事のあり方で、欧米社会を理想とするような食のあり方。
これがトレンドになって久しいものがあるのです。
高齢の母親のお見舞いに、我が家に甥っ子が遊びに来ているのですが、彼の身分は大学生。
弱冠20才で、今は大学のダンスサークルに所属して、日々踊り狂っている模様です。
そんな甥っ子が心がけている食事はといえば、糖質制限食。お米を極力控えた食事を励行している模様です。
理由を尋ねてみると、ヤセたいから。ブタのような体つきで踊っていても、
“サマにならない”
彼はこのように主張しているのです。
おそらく後づけの理屈なのでしょうが、糖質制限食とは人体の構成要素に着目するあり方になります。
人体の構成要素をザックリ眺めてみると、
“水分60~70%・タンパク質15~20%・脂質13~20%・ミネラル5%・糖質1%”
このような組成になっているので、食べものはこの比率で選ぶことが大切。
素直に考えれば、水を毎日ガブ飲みする。寸暇を惜しんで水を飲み、常に水っ腹を維持するように心がける。
水以外の構成要素は、タンパク質と脂質が大部分なので、毎日にたくさん摂取すべきはタンパク質と脂質が多い食材。つまるところ、
「動物性食品」
これをたくさん摂った方が人体の構成要素を維持しやすくなる。
糖質制限派の主張を素直に聞けば、こうした具合になるのです。
■最良の食とは?
人体の構成要素に近いものを食べる。
実に理路整然としていて、竹を割ったかのような小気味よさすら覚えてしまうのですが・・・、でも、
この話をトコトンまで突き詰めてしまうと、人にとっての最良の食べものは
「ヒトである!」
こんなオゾマシイ話へと行き着いてしまう。霊長類ヒト科を中心に食べることこそが、自然でムリのない理想の食のあり方・・・。
健康と美容のためには、ヒトを食え!こんな結論にならざるを得ないと思うのですが、いかがでしょう?
糖質制限を推奨する側は、お米や小麦などから糖質を摂らなくても、タンパク質・脂質の多い食事を摂れば、
“ケトン体”
といわれる体のシステムへと切り替わっていくと主張しています。
ケトン体をカンタンにいえば、タンパク質や脂肪をエネルギー源に体の機能を維持させようとする働きのこと。
このシステムを使えば、お米などの糖質は不要になる。そしてそれは、農耕が始まる前の狩猟採集社会においては、使われていたシステム!
こんな風に説明されているのです。
確かに原始の人類は、昆虫を食べたり、肉食動物が食い荒らした草食動物の肉の残りをついばんだり。
草食動物の骨の中の髄を取り出して食べることもしていたようです。
つまりこのケトン体を利用した食のあり方は、農耕開始以前のあり方で、いわば、
「先祖帰りセヨ!」
こうした主張になるのです。
■定説は破綻?
でも、狩猟採集社会においても、
「ドングリ」
などを拾ってアクを抜き、臼のようなもので挽いていたことも分かっています。植物からデンプン、糖分を摂取するあり方です。
またバルセロナ自治大学のカレン・ハーディー博士が、石器時代の遺骨を調査してみたところ、歯にたくさんの歯石がの残っていたそうです。
博士はそこでその成分が何であるかを調べてみたところ、ほとんどが
“デンプンの粒子”
だったことが分かったと説明するのです。
※参考:『ご飯は健康長寿の敵か?味方か?』
さまざまな最新の研究も参考に推測できることは、石器時代の人類の摂取カロリー。低く見ても、その5割以上は、
「糖質だった」
この事実が明らかになったと報告されているのです。またドングリ以外にも様々な植物を採種して食べていたことも事実。
農耕以前の社会においても、植物からデンプン・糖分を摂取するあり方は、肉食以上に歴史が長い。
このようにも言えるのです。
ヒトは歯の構成から見ても、雑食に当たる生きものなのでしょう。
そしてそれまでの食料獲得のあり方があまりに不安定で、非効率なものであったからこそ、人類は農耕を開始するに至った。
特に稲は粒の多さから、一度に大量のデンプン。糖分を収穫でき、しかも保存性に優れている。
極めて効率の良い食材であったことが、日本人がコメを選んだ理由と説明されるのです。
動物を追い回したり、昆虫を採りに行ったりするのがあまりにも非効率だったからこそ、人類は農耕を始めるに至った。
それにより食料の安定供給が可能になり、多くの人の口を養えるようになっていった。
人類社会を安定させ、繁栄に導いた原動力は
“農耕だった!”
といえるのです。
人類の誰もが糖質を制限して、その分を肉で補うのだとすれば、果たしてどれだけの量の肉が必要になるのか?
それは70億の人類を養うのに適した方法とは言い難い。そういわねばならないと思うのです。
■持続可能か?
牛肉1キロを作り出すためには、
「11キロ」
の穀物が必要になるといわれます。
豚肉1キロに対しては7キロ、鶏肉1キロに対しては4キロ。
そして穀物を育てるに当たっては、大量の水資源が必要になります。全人類が糖質を制限して、肉食に戻れ!
それは効率があまりに悪いし、地球資源のさらなる簒奪を引き起こしてしまいます。
糖質制限型モデルは持続可能とは、とても言い難い。こうしたものと言えるのです。
さらに今の畜産業は完全なる
“汚染産業”
になり果てています。肉質を良くし、可能な限りの早い出荷を実現するには、大量の
「抗生物質や成長ホルモン剤」
の使用が不可欠になるからです。
薬剤多投型、資源簒奪型で作られた食肉を私たちが多食してしまえば、健康面・環境面にどのような影響を与えてしまうのか?
想像に難くないと思われます。
糖質制限などの無茶なダイエットの氾濫は、心身を壊し、地球そのものを破滅に導く。
反自然なダイエット法といえるのではないでしょうか。
供給面・環境面・価格面・健康面、いずれの面でも、糖質制限を前提とするあり方にはムリがあります。
フードは風土そんな言葉がありますが、私たちはこの地で長く繋がれてきた食のあり方への再評価の必要を感じます。
もちろん、今のお米作りも農薬多投が当たり前になっていることは事実です。だからこそ食べる人の健康を真剣に考えて、
“努力と研鑽”
を惜しまない作り手を食べることで支援していくことが必要になると思います。
■参考文献
■無肥料無農薬米・自然栽培と天然菌の味噌・発酵食品の通販&店舗リスト
■自然食業界キャリア15年のOBが綴る