「有機肥料と化学肥料」
この2つはよく比較の対象になります。
有機肥料とは、動物の糞尿などをメインにしたもので、化学肥料の方は化学の力で合成されたもの。
この2つは、
“合成薬と漢方薬”
との違いに例えられることも多いのです。
西洋薬ともいわれる化学合成薬剤。その最大のメリットはといえば、
「即効性」
にあります。飲めばウソのように症状が鎮まっていく。
オビタダシイまでの炎症も強力なステロイド剤を塗りさえすれば、何ごともなかったかのように治まっていく。
化学の力は、即効性にあることがいわれているのです。
これに対して漢方薬の方はといえば、その効果は
“遅効性”
じっくりジワジワ、真綿で首を絞めるかのようにゆるりゆるりと効いていく。
漢方の世界でいうところの、『体質改善』。これを図りながら、じんわり柔らかに症状を鎮めていく。
こうした違いがいわれているのです。
有機と化学の違いはこの図式に当てはまるのではないかと思うのですが、なるべく自然でムリのない毎日を送っていきたい私たちは、この違いをどのように考えれば良いのでしょうか?
有機野菜は一般野菜に比べて自然で安心。そう思われているのですが、果たしてそれは
「本当なのでしょうか?」
そこで今回は、「肥料」について考えてみることで、
医者を遠ざけ、クスリを拒む。
そんな生き方のヒントについて述べてみます。
■即効性と遅効性
化学肥料を使うと、その多くは大気に
「蒸発」
していくことがいわれています。
化学肥料を与えたからといって、それがすべて作物に吸収されるわけではない。
正確に測ったものではないのでしょうが、作物が吸収する分量はせいぜい
“3割程度”
農業分野においては、このようにいわれることも少なくないのです。
半分以上は蒸発し、3割は作物が取り、残りの2割は、土に残ったり、地下水に沁み込んだり、河川に流れ出たりしていく。
化学肥料はロスの多いものではあるけれど、その最大の長所は何といっても即効性。
根っこからすばやく吸収されていくので、どんな条件の悪い土地であっても、速く・大きく育てることができてしまう。
もっと言ってしまえば、どんな
“ド素人”
であっても農薬とセットで使えば、ある程度の収穫を得ることができてしまう。
化学肥料とはこのような肥料であるといえるのです。
■有機と化学
化学肥料の即効性に対して、有機肥料の方はどうかといえば、
“遅効性”
これが特徴になります。
岩から水がゆっくりじっくり沁み出していくように、スローにジワジワ効いていく。
化学肥料のように大気中に蒸発しにくい特徴があり、肥料成分を土がいつまでも持っていてくれるため、ロスが少ない。
ジワジワと効いていくので、作物が肥料によって急がされるリスクが少なくなる。 比較的マイペースで、自然のリズムに近い形。
有機肥料を使った野菜は、そんな感じで成長していくわけなのです。
化学肥料を使うと、どうしたって成長を急がされてしまう。
イチ早く芽を出せ!早く双葉になれ!天高く速やかに茎を伸ばせ!早く葉を繁茂させ、できるだけ早く
「実をつけよ!」
こうして作物の自然なペースは狂わされてしまいやすい。
有機肥料は肥料の効果が緩く弱いため、生育は自然の状態に近いものになる。そのため化学肥料を使った野菜に比べて肉質は緻密で繊細、そして歯ごたえがしっかりある。
こうした野菜を育てることができるのです。
だから、化学肥料よりも有機肥料の方が
“良い!”
こんな感じでいわれているのです。
■高濃度の肥料成分
確かに有機肥料の特徴は遅効性で、化学肥料を使ったものよりも質の高い野菜を育てることができます。
でもそれは、あくまで
「最初の間だけ」
時間が経てば経つほど、質が悪くなっていく。こうした傾向が出やすくなるのです。
それは遅効性であるが故の、デメリット。そんな風にも言えるのです。
有機肥料は土が肥料成分を長く持っていてくれるのですが、時間が経つにつれ、持っていたものをドンドン
“手離し”
ていきます。
有機肥料を使い始めて3年くらいまでの間は、無肥料の土と肥料濃度はほとんど変わらない。
そんな状態なのですが、3年を越えてくると、濃度が勢いよく上昇し始めてしまう。時間が経てば経つほど、土は肥料成分で充満し、化学肥料とさほど変わらないまでの
「高濃度になる」
こうしたことが実験から明らかになっているのです。
そうなると作物は肥料過多に陥りやすくなってしまう。未消化の肥料成分の分解、そればかりに追われるようになってしまう。
肥料の軸となる成分は窒素肥料になるのですが、これを与えると作物は体内で窒素をアミノ酸に分解し、そこから植物性タンパク質などを作り出していきます。
でもその窒素肥料の分解には、光合成で作られる『糖分』がどうしたって必要になる。
窒素肥料が多ければ多いほど、糖分はその分解ばかりに使われてしまうことになる。分解量が多くなればなるほど、糖分は枯渇していく。
たくさんの肥料を使うことは、糖の浪費を招きやすい。こういうことになるのです。
■さまざまなリスク
糖分は作物の骨格部分に当たる
“細胞壁”
の材料にもなる物質です。窒素肥料を使うほどに細胞壁の構築がどうしても疎かになり、弱くて脆い壁になりやすい。
こうした傾向が見られます。
細胞壁は虫や病原菌から細胞を守るための固くて強い『鉄壁の壁』といえるものなのですが、肥料の多投はこの壁を
「障子やふすま」
のようなか弱くて脆いものにしてしまう。作りが弱いので虫にかじられやすくなり、その場所から細胞内に菌が侵入しやすくなる。こうして内側からドロドロに溶かされていく。
腐りやすい野菜になりやすい面があるのです。
野菜の腐敗は見慣れた光景なのでしょうが、それは肥料過多が原因で起こる現象。このようにいえるのです。
有機野菜がいつまで経っても農薬と訣別できない理由は、過剰な肥料投与にこそ原因がある。
そして肥料過多の野菜は甘みが弱く、栄養化に乏しく、ただ水っぽいだけのマズイ野菜。
こうしたモノになりやすいわけなのです。
また、肥料が過剰になってしまうと、
「硝酸性窒素」
のキケンも高くなっていきます。
硝酸性窒素とは、未消化の肥料成分が植物の体内に残留した状態を言いますが、これが
ガンや糖尿病、アレルギー、窒息、アルツハイマー
などの深刻な症状を引き起こす原因になってしまう。
野菜が毒菜へと変化する、そんな結果を招きやすくしてしまう。有機肥料の投与は
“行きはヨイヨイ・帰りはコワイ”
これに似た特徴があるのです。
■化学肥料の方が・・・
有機肥料は遅効性であるため、最初はほとんど肥料効果を実感することができません。
そうなると、使う側もムキになってしまい、
“これでもか!”
といった具合に、大量の有機肥料をさらに土に投入してしまいやすい面があるのです。
多いことは良いことだ!そう言わんばかりに量の感覚がマヒしやすくなっていくす。
大量に使ってしまえば、時間の経過で、後々肥料過多へと向かってしまう。こうした悪循環を招きやすい面があるのです。
肥料も農薬も一切使わない・自然栽培を始めるに当たっては、有機肥料よりも化学肥料だけを使っていた田畑の方が、成功確率が
「高くなる」
傾向が見られます。化学肥料なら使ったところで、半分以上は蒸発してしまうので、土に肥料成分が残りにくい。
仮に残っていたとしても、土から見れば明らかな反自然物なので分離されやすい傾向があるのです。
水と油が分離するのと同じ理屈で、自然の土と化学肥料とは混ざり合わない。
そのため肥料成分の撤去も比較的容易で、早い段階で自然栽培を成功させやすいことが説明されているのです。
一方、有機肥料は自然物なので、土が肥料成分をつかんでカンタンには
“離そうとしない”
そうなるといつまでも過去に使った有機肥料が土の中に残ってしまいやすい。それでは無肥料・自然栽培がなかなか上手くいかない。
有機肥料を使ってきた土の方が、成功までの時間が長くかかってしまう傾向が見られるのです。
■農法と医療
一般の栽培も、有機栽培においても、土は
「根っこを支えるだけのもの」
このようにしか考えられていません。
土には作物を育てるだけの力がないと思うからこそ、肥料という栄養のカタマリが必要になる。
有機も化学も土の力を軽視した農法といえるのです。
これに対して、無肥料・自然栽培は、土は完全で、植物を育むだけの養分が
“無尽蔵”
に備わっている、そう考える農法です。
土は、人が肥料を与え続けなくてはならないような非力で軟弱。そんなひ弱なものでは決してない。このことを前提にした農法といえるです。
問題はその完全なる土の力をどうすれば最大限に
「引き出すことができるのか?」
それを体系化した農法が自然栽培になるのです。
自然栽培のコンセプトは単に農法というところに留まらず、私たちの体にも当てはまるものではないでしょうか?
土が完全であるように、人の体も完全であるはずのもの。現代医学が言うように、医者やクスリに頼らなくては生きられないような
“脆くて弱い”
ようなものでは決してない。
本来備わった素晴らしい力を田畑でも人体でもいかに高め、発揮させていけばよいのか?
その問題意識で、今後もブログで発信していこうと思います。
「内科的治療も、外科的治療もどちらも病気を癒すことはできない。癒すのは自然のみである」
(ナイチンゲール『看護覚え書』より)
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