鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』 | 空想俳人日記

鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』

 本屋で暫く立ち読みして、なんか脳みその奥がうずうずして、とにかく入手した。

鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』01 鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』02 鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』03

 少し読んでて、脳みその奥から何かしら記憶のかけらがミミズのようにうねうねと顔を表してきて、「こんなような話、映画で観た気がする」そう思えてきたのだ。
 そしたら、いきなり、ばちゃんと脳みそが破裂するように、映像が浮かんだ。岡田准一が特攻兵としてゼロ戦に搭乗するシーン。
「あああ、『永遠の0』だあ」、2013年12月に劇場で鑑賞している。
 でも、あれはフィクションであり、しかも、海軍による特攻隊の話。
 これは、陸軍による特攻隊で、9回の出撃から生還した特攻兵の話で、実話である。海軍がゼロ戦であるのに対し、こちらは九九式双発軽爆撃機。
 以下、講談社のサイトから。

 太平洋戦争末期に実施された”特別攻撃隊”により、多くの若者が亡くなっていった。だが、「必ず死んでこい」という上官の命令に背き、9回の出撃から生還した特攻兵がいた。その特攻兵、佐々木友次氏に鴻上尚史氏がインタビュー。飛行機がただ好きだった男が、なぜ、絶対命令から免れ、命の尊厳を守りぬけたのか。命を消費する日本型組織から抜け出すには。
 太平洋戦争の末期に実施された”特別攻撃隊”。戦死を前提とする攻撃によって、若者たちが命を落としていった。
だが、陸軍第一回の特攻から計9回の出撃をし、9回生還した特攻兵がいた。その特攻兵、佐々木友次氏は、戦後の日本を生き抜き2016年2月に亡くなった。
鴻上尚史氏が生前の佐々木氏本人へインタビュー。
飛行機がただ好きだった男が、なぜ、軍では絶対である上官の命令に背き、命の尊厳を守りぬけたのか。
 我々も同じ状況になったとき、佐々木氏と同じことができるだろうか。
 戦後72年。実は本質的には日本社会は変わっていないのではないか。
 本当に特攻は志願だったのか、そして、なぜあんなにも賛美されたのか。
 命を消費する日本型組織から、一人の人間として抜け出す強さの源に迫る。


 まず、「はじめに」で、9回の出撃から生還した特攻兵がいたことを伝えてくれる。その名も佐々木友次(ささきともじ)。彼を歴史から埋もれさせてはいけない、そう思った鴻上氏の熱意が伝わる文章だ。特に、当時の特攻隊を美辞麗句で書き綴った、命令側の上官たちの著書が嘘だらけであることに怒りを覚えたのだろう。ありがたい、鴻上氏なら真実を伝えてくれると思った。

鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』04

第1章 帰ってきた特攻兵
 ここには、特攻隊、主に、海軍の神風特攻隊ではなく、佐々木友次という人が参加した陸軍の特攻隊の話だ。鴻上氏が、この特攻隊の真実を伝えるべく、9回の出撃をし、9回生還した特攻兵、佐々木友次を世に知らしめる経緯が書かれている。
 そして、佐々木友次はまだ生きていることを知り、北海道の病院に入院している彼をなんども訪れ、インタビューもしている。それは、佐々木氏の死の直前なのだ。もし、鴻上氏が彼の存在を知り、インタビューまでしたこのタイムリーな出来事が無ければ、この本の前に著わした小説『空に飛ぶ』も、この本『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』もなかったろうし、佐々木友次の存在も消えていただろう。
 何故なら、終戦間近の特攻隊の話は、当時、特攻隊の「命令された人」ではなく「命令した人」による著作が偽りの内容とともに、戦後世に出て、世界に日本の「特攻隊」をPRしてしまったのだ。それは、すべて、死しても、日本のため、天皇のために死を覚悟で特攻した若者の話に美化されて、世界に流布された。
 鴻上氏は、そうではないのだ、その確証を得て、この本を執筆している。9回の出撃をし、9回生還した特攻兵が教えてくれた、特攻隊とは何か。

第2章 戦争のリアル
 この章では、まさに、9回の出撃をし、9回生還した特攻兵、佐々木友次の物語だ。この前に、書かれた小説『空に飛ぶ』は読んでいないが、読んでいなくて良かったと思う。何故なら、『空に飛ぶ』は絶賛される中、一部の読者から、「上官は帰還を喜んだだろ」とか、そんな感想もあったみたいだ。
 この本を読んでて、特に、この第2章では、9回の出撃に対し、出撃仲間の隊長は、「良く戻って来た。また飛んでくれ」と言われている佐々木だが、命令を下した上官は「なんで戻って来たあ。死ぬのが怖いかあ」と言われたそうな。
「ほりゃ、怖いわな」
 そしたら、佐々木氏は、相手をやっつけて、また戻れば、また、やっつけにいけると。そう、彼は、特攻隊の、自殺行為に対し、「おかしい」と思っていたのだ。彼は、第1章でも語られているが、相当な空の達人だ。隊長も、「また戻って、空爆すればいい」くらいのことを言っていた。
 それを上官は「なんで帰ってきたんだ」と。すでに、日本は、特攻隊や、人間魚雷「回天」を発案した時点で負け戦だと多くの人が分っていたはずだ。
 第1期の有能な陸軍特攻隊の万朶隊には、佐々木氏を認める隊長がいたが、命令だけ下し、「最後は俺も行く」と言いながら飛ばない上官を、多くの特攻兵は憎んでいた。しかし、上官はあくまでも、志願で募ったとして彼らを死に追いやり、戦後になっても、上官だった者たちは、自分たちの立場を守るために、「命令や強制ではなく、多くの志願者が殺到した」と書いている。その嘘を、ここで、鴻上氏は、暴いている。詳しくは第4章を。

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第3章 2015年のインタビュー
 ここでは、この本を書くのにあたり、なんと、まだ生きておられたご本人、札幌の病院におられる佐々木友次氏とのインタビューが綴られる。
 この章を読んでて、特攻隊で「命令した人」が戦後、嘘も固めて、志願兵の熱意に大変だったのに対し、本当は、「命令された人」は逆らえない、そんなことがひしひしと伝わってきた。
 ボクは、この章で、鴻上氏が、今凄く、日本を左右する仕事として、佐々木氏に会っているんだなあ、そう思った。
 特攻隊の「命令された人」として生きるとはどういうことか、そして、「命令した人」がいかに、戦後も、自らの立場を正当化しているのか、このインタビューで、ひしひしと感じた。
 特攻隊に命令した人は、戦争の勝ち負けは関係ない、役割は、突撃死させることだった、こんなんで、日本は勝つわけない。優秀な飛行隊が何度でも攻撃をすることの方がいいのに、「体当たりで死んで来い」、これは、戦争ではない。自殺を促しているだけだ。特攻隊などという戦略で戦争に勝つわけない。
 佐々木氏の言葉の中に「寿命」という単語が何度も出てくる。これは、「いのち」と置き換えてもいい。「いのち」とは、自分や他人によって立たれるものではない。与えられた命を全うすることが生きるということ、そんな自らの意志を持っていたのであり、命令に従うか命令に背くかという問題よりも、もっと次元の高い、生き物の尊厳にかかわることじゃなかろうか。それを時流に流される逆らう、そういう同調圧力との闘いではなく、自らの信念を曲げない、そう言うことだったと思う。いや、ボクたちは、そういう生き方をしなければならない。今の時代でも同じだ。

第4章 特攻の実像
 そして、最終章で、特攻隊は何であったのかが語られる。これが、過去の歴史、戦争時代の話だけではないことが、ここには書かれている。
 もちろん、特攻隊は、戦争中の一つの手法だ。しかし、人間魚雷とともに、何故に死を覚悟で爆弾搭載して突っ込む? 有能な空爆技術を持っている操縦士にも、体当たりを命じたら、人は減るだろう。戦う人が減るということは、いつか命令した人間も、体当たりするのか、それが、いかないのだ。いかずに、戦後も生き延びている人間が戦犯もうけずに、特攻隊を、自分たちを美化するための本を書いている。
 みんな志願したことになってる。実情は、「おまえ、なんで志願しないのだ。非国民め」なのである。
 特攻隊そのものに対し、飛んで死んだ者たちには、追悼を捧げるべきだ。しかしだ、「生きて帰ってくるな、死んで来い」と言った上官は、まったくリーダーとして失格だった、だけでは済まされない、人の命を、しかも同じ日本人の未来を築く若者に死の宣告をしたのだから、責められて仕方が無いはずでしょう。さらには、傍観者の大衆も、なんで死んでこんかった、とな。
 マスコミや大衆について、少し引用。
《満州事変の時、ほとんどの新聞が「援軍」「擁軍」になった時、『大阪朝日新聞』だけは、「この戦争はおかしいのではないか。謀略的な匂い、侵略的な匂いがする」と書きました。ですが、在郷軍人会を中心とする不買運動にやられて部数が急落(奈良県では一部も売れなくなりました)、最終的には負けて編集方針を変えました。》
 新聞社は売れるから書く、それを読む国民は熱狂する、こうしたことからも、特攻隊は英雄扱いされていった。良識に反することが常識となっていく。
 この第4章では、そんな人々が今だ、日本には存在することが書かれている。ボクも実は、コロナ禍の時に、同じ憂き目にあっている。AMIが企画した音楽祭から主催者は干そうとし、さらには同じ仲間でありながら音楽に関係がない団体から、同調圧力でやっつけられた。ま、その団体から登録外したんでいいけどね。
 だから、すごい、よく分かるんよ。この第4章で、何も言えない筈の戦時中に、素晴らしい意見を吐いた人がいるのを引用したい。これ、AMIよ。
《1945年(昭和20年)2月下旬、木更津の海軍航空基地で、連合艦隊司令部により作戦会議が行われました。/ そこで、赤トンボと呼ばれた「九三式中間練習機」を特攻に投入することが発表されました。「全軍特攻化」ですから、練習機といえども特攻するときめたのです。赤トンボは、翼はもちろん羽布張りの複葉機で、最大速度が200キロほどです。迎え撃つグラマンはおよそ600キロ。(中略)/ すると、末席にいた29歳の美濃部正少佐が立ち上がりました。階級として、この会議では一番下位の飛行隊長でした。/「劣速の練習機まで狩り出しても、十重二十重のグラマンの防御陣を突破することは不可能です。特攻のかけ声ばかりでは勝てるとは思えません」/ 制空用戦闘機と少数の偵察機を除いて、全軍特攻化の説明をした参謀は、意外な反論に色をなして怒鳴りつけました。/「必死尽忠の士が空をあおって進撃するとき、何者がこれをさえぎるか!》/本によっては、参謀は「断じて行えば鬼神も之を避く!」と怒鳴りつけたという表現もあります。》
 ほら、東条首相が大好きな精神力を表す言葉だ。多くの司令官は、精神力ですべてを押し切ろうとした。技術や装備のリアリズムで、美濃部正少佐は答えます。
《「私は箱根の上空で(零戦)一機で待っています。ここにおられる方のうち、50人が赤トンボに乗って来て下さい。私が一人で残部たたき落として見せましょう」》
 彼は、芙蓉部隊という夜間攻撃専門の部隊の隊長で、厳しい訓練で知られ、「これができなければ特攻に出すぞ」と物価を𠮟咤した人で、徹底して特攻を拒否、部下を誰も特攻には出さず、そのかわり夜間襲撃で確実な戦禍をあげている。その彼はこうも言ったと。
《「いまの若い搭乗員のなかに、死を恐れる者は誰もおりません。ただ、一命を賭して国に殉ずるためには、それだけの目的と意義がいります。しかも、死にがいのある戦功をたてたいのは当然です。精神力一点ばかりの空念仏では、心から勇んで発つことはできません。同じ死ぬなら、確算のある手段を講じていただきたい」》
 さらに言う。
《「ここに居あわす方々は指揮官、幕僚であって、みずから突入する人がいません。必死尽忠と言葉は勇ましいことをおっしゃるが、敵の弾幕をどれだけくぐったというのです? 失礼ながら私は、回数だけでも皆さんの誰よりも多く突入してきました。今の戦局に、あなた方指揮官みずからが死を賭しておいでなのか⁉」》
 以下は、77歳の美濃部氏に直接会った保坂正康氏の記憶から、美濃部氏の言葉。
《「ああいう愚かな作戦をなぜ考え出したか、私は今もそれを考えている。特攻作戦をエモーショナルに語ってはいけない。人間統帥、命令権威、人間集団の組織のこと、理性的につめて考えなければばらない。あの愚かな作戦と、しかしあの作戦によって死んだパイロットとはまったく次元が違うことを理解しなければならない」/「私は、若い搭乗員達に特攻作戦の命令を下すことはできなかった。それを下した瞬間に、私は何の権利もなしに彼らの人生を終わらせてしまうからだ。そんなことは私にはできないし、してはいけないとの覚悟はあった」》
 心に染み入る言葉だ。そして、「人間統帥、命令権威、人間集団の組織のこと、理性的につめて考えなければばらない」は、当時だけでなく、今の時代にも言えるのではないかとつくづく思う。
 命令した人も世の中の大衆の傍観者も、分かっていないのに、同調圧力で持って命令された人が命令に従わないことを非難する。ボクは、かつて、鴻上氏が中野信子氏と対談した『同調圧力のトリセツ』で鴻上氏の意見にいたく共感した。
 そして、この本のラストに、面白いことが書かれている。戦争末期と今とが繋がる話
だ。
《南スーダンでの駆け付け警護への参加に対して、「1熱望する 2命令とあらば行く 3行かない」という三択で、3に丸をつけると、個人的に上司に呼ばれて「なんで行けないんだ?」とえんえん問いつめられたと、匿名の自衛隊員は語っていました。そして、結局、2と答えたと。/ 1944年と2016年が一気につながった瞬間でした。》
 もし、今でも、世間が、社会が、精神主義を持ちだしたら、それは、戦中と何も変わらない、そう思った方がいい。精神主義とは、リアルな現実を直視できないリーダーが能力のなさに使う手法だからだ。

鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』08
鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』09

 最後に、「おわりに」から引用。
《多くの人に佐々木友次という人がいたことを知って欲しい。多くの日本人に、こんな特攻隊員がいたことを知って欲しい。/ 佐々木さんの存在が僕と日本人とあなたの希望になるんじゃないか。》


鴻上尚史『不死身の特攻兵ー軍神はなぜ上官に反抗したか』 posted by (C)shisyun


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