ショーペンハウアー『幸福について』 | 空想俳人日記

ショーペンハウアー『幸福について』

 ショーペンハウアーをマンガで読むことにした。『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』『まんがでわかる! ニーチェの哲学』を読んで、ショーペンハウアーの「幸せって何?」が知りたくなった。
 この人も、『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』に出てたキルケゴールと同様、実存主義の祖と言われてるし(何人いるんだろ、実存主義の祖は)、『まんがでわかる! ニーチェの哲学』でめっちゃニーチェの鋭さに感銘し、なら彼が影響を受けた師匠的存在も理解せんとあかんよね、思ったのでねえ。
 このマンガ本、講談社まんが学術文庫というシリーズ本で、以前フッサールの『現象学の理念』で楽しく学ぶことができたのよね。
 で、一応、ショーペンハウアーの概略。

アルトゥール・ショーペンハウアー Arthur Schopenhauer
[ 1788 - 1860 ] ダンツィヒ生まれのドイツの哲学者。「生の哲学」の祖。主意主義とペシミズムの代表者。ゲッティンゲン大学で自然科学・歴史・哲学を学び、プラトンとカント、インド哲学を研究する。イェーナ大学で論文「充足理由律の四根について」によりドクトルの学位取得後、1820年ベルリン大学講師となったが、当時ヘーゲル哲学が全ドイツを席巻、人気絶頂のヘーゲル正教授に圧倒され辞任し、在野の学者となる。主著である『意志と表象としての世界』(1819-1844)を敷衍したエッセイ『余録と補遺』(1851)がベストセラーになると、彼の思想全体も一躍注目を集め、晩年になってから名声を博した。フランクフルトにて没。ニーチェやヴァーグナーをはじめ、哲学・文学・芸術の分野で後世に大きな影響をおよぼした。


ショーペンハウアー『幸福について』01

 このマンガ、実際のショーペンハウアーの高齢の時期から始まるのだが、若きエリザベート・ネイが自殺しようとする現場に出会い、引き留めようとする。その裏心が素敵だ、人気の出ない彼の哲学思想を、この娘に注ぎ込もうとする、失礼。
「人間が幸福になることは難しい。しかし、出来る限り楽しく生きる術はある」
「キミが幸福になれる要素がある。人生において、できるだけ幸福に生きるためには、自分自身の中に享楽を見つけ出すことだ。その中でも最も高尚な享楽を見出す術が、芸術に勤しむこと。キミはそれを実行出来る」

ショーペンハウアー『幸福について』02

 そうして、彼の幼少の頃の父との確執や、ヘーゲル大人気VSショーペンハウアー不遇の教師時代、そうした回想も織り交ぜながら・・・。
 キラキラ輝いて帰ってきたエリザベート・ネイ(1833年1月26日~1907年7月29日、女性彫刻家として米国で大成)と再会するのだねえ。『意志と表象としての世界』を敷衍したエッセイ『余録と補遺』もベストセラーになってた頃。
 先生の胸像を死ぬ前に完成させようと。「おいおい、わしはまだ死なん」。こうして、泊まり込みでの二人の暮らし、いいねえ。幸せだねえ、先生! 「もう少し若かったら」なんて、贅沢だねえ。十分幸せじゃん。

ショーペンハウアー『幸福について』03

 そう、「人は幸福になるために生きている」という考えは人間生来の迷妄であるのだ。自分を他人と比較して、他人の評価をたえず気にすることが不幸の元凶。孤独と向き合わず「内省=自分との対話」を怠り、目を逸らし続けると、自身の外側に幸福を求めるようになる。外からもたらされる幸福は、多くが虚構。名誉、地位、財産、他人の評価に惑わされず、自分自身が本来そなえているものを、内面から沸き起こる主観を育むことが幸せへの鍵なんだよね。

ショーペンハウアー『幸福について』04

 このお話で、目立たないけど、もう一人大切な人が登場している。どんなことがあっても、絶えず弟子として、笑顔を振りまくヴィルヘルム・グヴィナー。先生自身が、彼の人柄に、感動すら覚えている。
「人柄だけは誰からも冒されることなく、人生において普遍的である」 「人の幸不幸は主観の影響下にある」
 このお話のあちらこちらに、心に突き刺さる言葉が散りばめられている。
「人間は他人と合わせようとして自分の4分の3を失う」
「孤独を愛しなさい。孤独を愛さない人間は、自由を愛さない人間にほかならない。なぜならば、孤独でいる時のみ、人間は自由なのだから」
「若い頃に分かったと考えていることが、年をとると本当に分かってくる」

ショーペンハウアー『幸福について』05

 そして、幸せになるには……。
『自分の中にある幸せを数えれば、あなたはすぐに幸せになれるよ』
 キリスト教的世界観を悲劇的にとらえ、インド思想や仏教の優越性を説きながら、当時のヨーロッパ人には見向きもされず、おまけにヘーゲルという人気哲学者もいた時代を孤独を友として幸福を得たショーペンハウアー自身の物語、まさに、この本こそ、読むと幸せになれる一冊だよね。


ショーペンハウアー『幸福について』 posted by (C)shisyun


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