樹木希林120の遺言 | 空想俳人日記

樹木希林120の遺言

 遺言というより名言かなあ、120すべてが遺言のつもりで語ってはいないと思うから。

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 あと、8つの章立てになってるけど、この章の切り口はあまり好きではない。できれば時系列、あるいは女優なのだから、出演作品年代順で並べて欲しかったね。

樹木希林120の遺言04

 彼女を面白い女優だな、そう思ったのは、やっぱテレビドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『ムー』『ムー一族』(1970年~78年)。向田邦子と久世光彦コンビによる名作だねえ。やっぱ、間の『寺内貫太郎一家』はつなぎのドラマだったんケ。
 その当時の彼女の名言。
☆世の中でババアこそ革命が起こせる唯一の存在。寺内きんの役やってて痛切に思ったそうだ。男は社会的なめいよだとか永光だとかいうものがなくちゃ生きていかれない。ゴキブリと同じで、バアさんが世の中でいちばん強い。
☆期待されないっていうのが一番いいものができるの。だから『寺内貫太郎一家』もつなぎのドラマで。局がみんな揃ってああじゃないこうじゃないって船頭が多くて、全部をれをまとめるとなんか曖昧なドラマに。だから何にも期待されない、そういう時に、やっぱり本職に任せてくれるといいんじゃないですかね。

 それから、CMも面白かったねえ。岸本加世子とのやりとり。
 そんなフジカラーCM(1980年)についてコピーライターの川崎徹さんと逸話。
☆「なんか変じゃないですか? 美しい人は美しく写るのはわかるけど、美しくない人も美しく写りますってのはおかしい」「そうなんですよ、うーん、フィルムの質がいいっていう」「でも、それはおかしいでしょう」で、落ち着いたのは「美しい人はより美しく。そうでない方はそれなりに」が誕生した。

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 20世紀から21世紀になると、彼女は俄然、映画出演が多くなったよね。ボクが観た映画では佐々部清監督の映画『半落ち』(2004年)。寺尾聡が主演なんだけど、これに樹木希林は出てましたよ。日本アカデミー賞助演女優賞貰ってたと思う。

 そして印象に残っているのは、松岡錠司監督『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2007年)。リリー・フランキーが亡き母への思いをつづった自伝的ベストセラー小説の映画化。オダギリジョーが主演で、そのオカン役だったねえ。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞貰ってるねえ。
☆子供の時に他人と比較する無意味さを知ったので、受賞してもしなくてもなんとも思わない。世間が楽しんでるなら「さいですか」とありがたく頂いとこう。
 4年前の旭日小綬章に内田から「四の五の言わず、大人しく頂いとけ」と言われ「ロックンロール!」しか言わない人かと思ってた、が面白い。
☆世の家族が崩壊しないのは、女の粘り強さですよ。女が台となって"始"って感じになる。全ての始まりの土台を作るのが女。
オカンだって、ちゃんと自分の中で人生を選んできた。結果的に、あの人の中からは愚痴が聞こえてこない。いろんな修羅場があっても人の責任にしないのは、女としての潔さ。
☆創造の創という字は「きず」という字なんですね。絆創膏の「創」っていう字なんですよ。ものをつくるっていうのは、ものを壊してつくっていくことなのね。どっかに傷をつけながら、そこを修復するっていうか。
☆人間にも冥利があって、置き場所によって、その人が生きたり、つまらないことになったり。

樹木希林120の遺言06

 そして、是枝裕和監督『歩いても 歩いても』(2008年)に出演。この作品以降、是枝監督作品のほぼ常連さんになっていくね。

 河瀬直美監督『あん』(2015年)は、元ハンセン病患者の役を演じてたね。
 その映画『あん』公開時のインタビュー。
☆私のことを怖いという人がいるみたいだけど、それは私に欲というものがないからでしょう。欲や執着があると、それが弱みになって、人がつけこみやすくなる。そうじゃない人間だから怖いと思われる。
☆自分で壁つくって閉じこもっている若い人はっぱいいる。自由に生きていいのに自分で生きにくくしている、そのぜいたくさ。壁なんかないのにね。それが伝われば、この役を演じた意味はあったかな。
☆風評を膨らませたり、流れを強めたりするのは結局、私たちなのよ。隣近所の目と耳を気にして。でも、その目となり耳となってるのもまた、一人ひとりの「私」。自分はどうなんだって自分を疑ってみることも時には必要。誰かを排除しようという風潮が強いとしたら、その人たちの不満が言わせてるのよ。それを聞く耳を持っている人がいないから。自分の弱さを知るってこと。
☆やりのこしたことなんて、死んでみないとわからないですよ。

 それから、是枝裕和監督『海よりもまだ深く』(2016年)。『歩いても 歩いても』と同じ阿部寛が主演。あの時は、横山良多だった。姓は違うけど「良多」だ。母親の樹木希林と息子の安部、その別れた妻が真木よう子、そして孫。家族の関係は壊れているのだけれど、奇妙な結びつきがリアリズム。阿部の姉役の小林聡美が、大人になった姉弟関係を巧みに演じてるし、脇役のリリー・フランキーやミッキー・カーチスが、いい役してる。
 そんな映画『海よりもまだ深く』公開時のインタビューから。
☆どうやったら他人の価値観に振り回されないか?「自立することじゃないでしょうか。自分でどうしたいか、何をするべきか、とにかく自分の頭で考えて自分で動く。幸せというは「常にあるもの」ではなくて「自分で見つけるもの」。何でもない日常や、とるに足らないように思える人生も、おもしろがってみると、そこに幸せが見つけられるような気がするんです。
☆ときめくことは大切。自分が素敵になれば、それに見合った出会いも訪れるもの。
☆組織に属している人は、謝れば逃げ切れるって思ってるみたいだけど、みんな逃げ方が下手よね。謝るなら心からちゃんと謝る、謝らないなら謝らない。
☆お金や地位や名声もなくて、傍からは地味でつまらない人生に見えたとしても、本人が本当に好きなことができていて「ああ、幸せだなあ」と思っていれば、その人の人生はキラキラ輝いていますよ。
☆同棲するなら、籍を入れた方がいいわよ、それは。だって同棲っていうのは、別れちゃったら嫌なものが何も残らないから。その気楽さは、人生において無駄ね。そんな生ぬるい関係を繰り返しても人は成熟しない。

 そして、最後の映画出演となった是枝監督作品『万引き家族』(2018年)。
☆今度の『万引き家族』は、血を超えた絆で繋がっている家族の話。家族に置いて、そうでないとならないという決まりはないわね。
☆自分の顔に飽きたの。是枝監督の作品に出るのも、これが最後だと思ったから提案したわけ。人間が老いていく、壊れていく姿を見せたかった。高齢者と生活する人も少なくなって、いまはそういうのをみんな知らないでしょう?未完にかぶりつく姿がすごいと言う人もいるけど、実を歯ぐきでしごいたの。歯がないってしういうことなのよ。

 画家の熊谷守一を描いた映画『モリのいる場所』(2018年)では、画家の妻役で。モリさんを山崎努。いやあ、いい映画だったよ。『万引き家族』と同年だけど、こちらのが先。だが、ボクは、この映画を樹木希林さん追悼記念で観たのだ。つまり亡くなられて後で、この作品を鑑賞した。
 そんな映画『モリのいる場所』公開時のインタビュー。
☆「もっともっと」をなくす。「こんなはずじゃなかった「もっとこうなるべきだ」もなくす。自分を俯瞰して「こうしていられるのはありがたい、ほんらいありえないこと」と思うことで、楽になる。
 そして、熊谷守一さんの死について、
☆熊谷守一さんみたいには出来ませんけど、年を重ねるごとに力のあるいい顔になりたいんです。細胞が全く動かなくなり、心も全く執着がなくなるまで生きてみたいなあと思うんです。

 是枝監督と、彼の映画ゆかりの人、YOUと樹木希林の鼎談(2008年)から。
☆子供にとってこれが可愛いんだろうとか、好きなんだろうとか思うのは、ちょっとね。あんまり過干渉でもね。ああするべきだ、こうしちゃいけない、ああしちゃいけないというものの中からは、人は育たない気がする。
☆その子の持ってる性質っていうのをね、これはダメだとかって、「こういうふうにしよう」というのは無理だから。じゃあそのマイナスのところを、「あのね、すごくそれはいいことだよ、用心深いってことだからね」っていうふうに、違う言葉でもって評価するようにしてるの。
☆好きでもなくても、身過ぎ世過ぎでいろんなことをやらなきゃなんなくて生きてるのに、自分の好きなことやって生きていられるというのは、大変な感謝のことであり、なおかつ、それを求めたらば「好きなことやって食えるようになりたい」というのは、おこがましいことですよ。

 彼女の女優魂は、単に演じるにとどまらず、作品作りに監督や演出家にどんどん物申す人、「ここのシーン、私要らないよね」「このセリフ、私はここまでで、この後のは、彼女が喋った方がいい」「どういう経緯でここにいるのか、少し観客に匂わせる場面あった方がいい」みたいなことを平気で言ったと聞いている。それで、監督や演出家は、彼女がかけがえのない存在になっていく。久世さんも是枝さんも、そうだったと思う。

 最後に、人間への興味について「ああ、ボクと同じだなあ」というお言葉。今のボクと同じ歳の頃の。
☆私は人のこと嫌いなんです、煩わしいから。だから友達もいない。私、目がやぶ睨みなんですけど、これも何か意味があるなと。見なくてもいいのに、あさっての方向を見て、人間の裏側を見ちゃうみたいなね。そういうところが人と和を保っていけないところかなと。だけど裏腹に、人間そのものにはすごく興味があるんです。だからものを創るという点でその興味を出して、普段は独りでいい。今でも芸能界の只中にはいないで、ちょっと外れた、自分にとって一番居心地のいい場所にいるんですよ。入り込まなくて済む場所に。

 以上、ボクが知っている女優、樹木希林作品を時系列に並べ、その頃の名言をピックアップしてみたよ。


樹木希林120の遺言 posted by (C)shisyun


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