ピンク・フロイド『対』『永遠』を改めて聴き直す | 空想俳人日記

ピンク・フロイド『対』『永遠』を改めて聴き直す

 実は、『ピンク・フロイド・アンソロジー』を読んでの感想を、以前ブログに書いたけど、実は、その時は、この本を全部読み終わってなかったのね。



 で、実は、やっと読み終えて、思ったんだけど、ボクの脳の中には、アルバム『鬱』までしか、あんまし記憶に残っていないのね。『対』も『永遠』も持っているんだけど、何故か、どんなアルバムだったか?ってねえ。
 で、読み終えて、この二つのアルバムの全曲ガイドが掲載されてたので、それを頼りに改めて、聴き直してみた。

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 あ、その前に、「71年8月、箱根アフロディーテ」というタイトルの岡井大二氏(四人囃子)×保科好宏氏の対談に、当時の自分を振り返っちゃったよ。既に、前年1970年の『原子心母で」ピンク・フロイドのファンになってたボクは、この箱根でのピンク来日演奏の情報を入手してて、ワクワクドキドキしながらも、まだ中学生で確か高校受験を控えてたんじゃなかったかなあ、一人で行く勇気がなかったことを思い出したよ。しかも、このコンサートと同じ年の11月に『おせっかい』が出て入手し、「ギルモアのギターとライトのキーボードこそフロイドだ!」と認識してフロイド狂になったのだけど、そのアルバムの中の大作「エコーズ」が箱根で先行して演奏されたらしいというのも聞いて、「行けばよかった、行けばよかった」と頭の中はグルグル状態だったよ。あはは。大学生から社会人になって、チックコリアのコンサートには勇気が湧いて何度も行ったけどね。

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 脱線しちゃったね。で、まずは、『対』を聴いてみた。以下感想。

『対』
・「Cluster One」のギルモアのギターとライトのピアノの掛け合いが、特に後半ゾクゾクいいね。『おせっかい』の「エコーズ」の時から、ピンクは、この二人がいないと、そう思ってた。
・「What Do You Want From Me」は、ノリが『アニマルズ』っぽいかなあ。ボク、『アニマルズ』も好きだから。
・「Poles Apart」は、中間部のサーカスっぽい大道芸っぽいメロディが絡んでくるところが気持ちいい。
・「Marooned」、もうギルモア節が炸裂してるねえ。このギターがないと、ピンクに思えないのよ。
・「A Great Day For Freedom」は、マイナー部の「m6」コードが気持ちいい。リックの奏でる和音はいいよ。そうなのだ、リックとギルモアの掛け合いを聴いてると、「m6」や「9」がメチャ心地よい。これは、教授(坂本龍一)もドビュッシーで発見したんだけど、ロックバンドで「6」や「9」を使ってるのはピンクぐらいじゃないかな。だから、ロックというジャンルからも食み出てるんだよね。おそらく全員で音作りをした1970年代に見つけたコードだと思う。なので、その後、どんなに怪物的なアルバム『狂気』や『ザ・ウォール』が出ても、ボクは、その中に、ギルモアのギターとライトのピアノをずっと探し続けてた。『ザ・ウォール』で言い尽くしていなかったことアルバム化した『ファイナルカット』があるけど、当時の中心人物のウォーターズはリック・ライトを解雇したそうな。だから、その後のピンク・フロイド名義の『鬱』はライトはゲスト出演なんだ。申し訳ないけど、ギルモアのギターとライトのキーボードがないと、ピンクじゃない。ロジャー・ウォーターズのソロアルバム『RADIO K.A.O.S.』も持ってるけど、ギルモアのギターとライトのピアノがない、これはピンクじゃない、そう思ったよ。間違いないのは、どれだけピンクのコンセプトをウォーターズが主導したかもしれないけど、ピンクはギルモアのギターとライトのピアノの掛け合いがないといけないバンド。つまり、4人で曲作りをしてた1970年代が最高のバンドだった、そう思う。その後の『狂気』や『ザ・ウォール』がどんなに最高の傑作だとしても、ピンクから脱退したウォーターズのその後のソロアルバムは殆どつまんない。それは、メッセージ先行しながらも、ギルモアやライト、メイスンの音楽性が欠如してるからだと思う。ウォーターズはもっと早く自覚すべきだった。一人でピンクを作ったのではないことを。
・「Wearing The Inside Out」のサックスで、『狂気』の「マネー」や「アス・アンド・ゼム」、『炎』の「クレイジー・ダイアモンド」を思い出した。
・「Take It Back」の冒頭を聴いて、『ザ・ウォール』の「ラン・ライク・ヘル」だ!って、叫んでしまった。
・「Coming Back To Life」は、メイスンのリズムが入ってくる部分から心が躍るよ。
・「Keep Talking」の聴きどころは、物理学者スティーブン・ホーキングの声、そして、ギルモアのボーカルとソウルフルな女性コーラスの掛け合いだね。この掛け合いが、次第にギルモアのボーカルからギターへ、そしてホーキングが絡んでくる、いやあ、秀作だね。
・「Lost For Words」の冒頭、扉が閉ざされたね。何を言えばいいか分からないけど、途中のSEで何か言ってる、けど、何を言ってるか分からない。なので、言葉を失う。
・「High Hopes」の冒頭に鳥のさえずりが。『More』の「Cirrus Minor」を思い出した。そして鐘の音。このアルバムで、一番好きなメロディラインかな。鐘のフェイドアウトで終わるかな、思ったら、最後に、チャーリーという子どもとの電話の遣り取りで、話してる途中でチャーリーに電話を切られてしまう音が。このアルバムのコンセプトが、面白い形でラストに組み込まれてる。

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 続いて、『永遠』を聴いてみた。以下感想。

『永遠』
・「Things Left Unsaid」の冒頭、『対』にもあった物理学者スティーブン・ホーキングの声が。『対』の最初の「Cluster One」に似てるけど、ギルモアのギターとライトのピアノの掛け合いは、ライトはシンセ和音のみで、ここではギルモアのギターだけで、ライトの不在を感じざるを得ないなあ。
・「It's What We Do」は、間違いなく『炎』の「クレイジー・ダイヤモンド」だよ。シド・バレットの不在と、ここではライトの不在が重なるねえ。
・「Ebb and Flow」。これ短いながらも、ギルモアのギターとライトのピアノの掛け合いが嬉しいよねえ。あは、なるほど『原子心母』の「アランのサイケデリック・ブレックファスト」ねえ。
・「Sum」は、メイスンのリズムが入ってくるあたりから『おせっかい』の「吹けよ風、呼べよ嵐」かあ。
・「Skins」のメイスンのリズムは『神秘』の「神秘」の中間部分から来ておるよ。このアルバム、ピンクの歴史がランダムに切り取られてるよ。
・「Unsung」は短いけど、『おせっかい』の「エコーズ」の冒頭を思い起こさざるを得ない。
・「Anisina」は、『狂気』の「アス&ゼム」だあ。サックスも入ってるじゃん、似てる。
・「The Lost Art of Conversation」は、ライトのキーボードが美しい。
・「On Noodle Street」は、短いけど、メイスンのリズムとライトのキーボード、ギルモアのギターの絡みを聴いてると『おせっかい』の「エコーズ」を思い出す。
・「Night Light」も、ギルモアとライトの絡む美しい商品。
・「Allons-y (1)」は、『ザ・ウォール』の「ラン・ライク・ヘル」だ!って、『対』の「Take It Back」でも叫んでたぞ。
・「Autumn '68」、おおお、リックの教会オルガンがいいじゃん。『原子心母』の「サマー '68」の続編か。
・「Allons-y (2)」は、「Allons-y (1)」の続編だけど、短いぞ、もう少し演奏せんかい。
・「Talkin' Hawkin'」は、『対』また本アルバム冒頭の「Things Left Unsaid」と同様、ホーキング博士が登場してしまうぞ。
・「Calling」は、確かに葬送曲のような重々しさがある。だが、ラストの方で、これは、天の声ではないか、そう思わせる。
・「Eyes to Pearls」は、メイスンのリズムとギルモアの単音アルペ的ギターから『神秘』の「太陽讃歌」のにおいが漂ってるねえ。
・「Surfacing」の後半からの盛り上がり、ギルモアのうねるギターはラストナンバーの序章のようにも聞こえる。
・「Louder Than Words」の冒頭のアコギが美しい。本アルバム唯一の歌詞があるナンバー。「僕たちが総力を挙げて鼓動を合わせれば言葉よりも物を言う」「魂と呼ばれるそれは鼓動と共にある言葉よりも物を言う」と歌う。終盤、たぶんリックのオルガンとシンセが聞こえ消え去っていく。リック追悼とピンクの歴史にふさわしいアルバムだ。

 実は持っている『永遠』は、デラックスDVDバージョンなんだけど、DVDの方の感想は省略するね。
 どちらのアルバムも、多分、聞きかじっただけで十分に聴き込んでいなかったと思う。ピンクの音楽は、片手間に聞いていてはいけないのだ。改めて、どちらも名盤だと思う。
 特に、リック・ライト亡きあと、『永遠』がピンクのアルバムとして出るのは奇跡だ。『対』の録音の時に、相当な量の楽曲を録音しながら、『対』に収められなかったテープが相当量ギルモアの蔵に、それこそお蔵入りしてたということで、それを引っぱり出して、再構成し直したゆえに、ほぼライト参加という形の『永遠』が誕生した。なんて、本当に奇跡だ。聴き直して、感慨深いよ。

 今回聴き直したアルバムも含めて、ピンク・フロイドの最高傑作は何かを考えたら、やっぱし『狂気』と『ザ・ウォール』じゃないかな、と思う。でも、その間の『炎』も『アニマルズ』も好きだよ。また、あんまし取りざたされない『雲の影』なんかも好きだなあ。
 けれど、もっともピンク・フロイドらしいのって、『ウマグマ』であり、同アルバムにライブ・ヴァージョンで入ってる「ユージン、斧に気をつけろ」ではなかろうか。
 でもね、もし、この世から立ち去る時、両手に1枚ずつしかアルバムを持っていけない、そう言われたら、ボクは、右手に『原子心母』、左手に『おせっかい』を握って、遁走すると思う。
 だけど(でも、だが、しかし、だけど、ばっかりだね)、『対』も『永遠』も素晴らしいアルバムだよ。
 ちなみに、『永遠』に収められてたブックレットのライナーノーツ読んでなかったみたいで今になって慌てて読んでいる。

『対』『永遠』を改めて聴き直す09 『対』『永遠』を改めて聴き直す10

 あと、ついでに、うちのお蔵のCDをいろいろ探してたら、ピンク・フロイドのライブ・アルバムが出てきた。これも、改めて、聴いてみたいと欲す。


『対』『永遠』を改めて聴き直す posted by (C)shisyun

蛇足・・・「The Final Cut」についてYoutubeにコメントしたこと。ピンクの史上最高の傑作「ザ・ウォール』で落ちこぼれた楽曲たち、らしいが、どうやら、いつのまにかロジャーウォーターズが主導の中、あのピンクで絶対必要なキーボード奏者のリック・ライトをロジャーは解雇してるらしい。なんで?ロジャーウォーターズは確かに「ザ・ウォール』で素晴らしいコンセプトも打ち出してるけど、「原子心母」や「おせっかい」でロジャーよりもギルモアとライトの掛け合いこそ、ピンクじゃなかったか、そういう時代を経て、自分が活躍できていることを自覚すべきだったと思う。有名になって驕り高ぶると、攻撃心が増大する。実際、ウォーターズ主導の『ザ・ウォール』は最高傑作だと思うが、その後のウォーターズのソロアルバムは、はっきり言ってつまんない。それは、そこに、ギルモア、ライト、メイスンがいないからだ。もともと昔から彼の作曲作品も多いが、明らかに、ギルモア、ライト、メイスンのアレンジで名曲になっていると思う。

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