甲竜伝説ヴィルガスト ~if~
第一話 『アームド・ドラゴン』
1-1.
「すっかり三智子もヴィルガストに慣れてきたみたいね。結局名前はそのままにしたのね」
「ええ。なんとなく・・・だったりもするのだけれど、やっぱりこのままが良いなって思って・・・」
アリア王国の中心部にかまえるアリア城。
その城内にある客間で第一王女のクリスは、もにょもにょと言葉を濁し気味に語る中島三智子に向かってにんまりと微笑んだ。
「え?なに!?」
「なんでもないわよ~?」
クリスのにんまり笑顔に、どこか怯える三智子は、メイドがおいていった紅茶を口に含みながら上目づかいでクリスのにんまりに耐えるしかなかった。
二度にわたる召喚で邪神を倒し、ヴィルガストに平和を導いた三池瞬が現実世界に戻ってあっという間に三年が過ぎた。
三智子にとってこの三年間で『幼なじみ』であった瞬の事を忘れたくないし、忘れられるわけもない。
ましてや、いつの日か再び瞬と再会する日が来た時に、自分が違う名前になってしまっていることを避けたかった。
そんな十六歳の乙女心である。
「ま、三智子がそう言うんだったら、そういうことにしておきましょうか」
「・・・あ、あはは・・・」
コンコンッ
例え第一王女であろうと、美しいドレスに身を包んでいようと、すっかり世話焼き婆のようなクリスに、返す言葉を失いかけた頃、分厚い書類を抱えたアリア王国第二王女アリシアが入ってきた。
「お姉様?そんな風に三智子さんをいじめると、その内返り討ちにあいますわよ?」
「返り討ちって!私にはなにもないわ!」
「何も無い・・・ふふふ。そういうコトにしておきましょうか。
それはそうと・・・いつまでもお姉様の長話しに付き合っていては仕事が終わりませんわよ。三智子?」
「あっ・・・そうだった・・・」
アリシアの言葉に我に返るように、三智子は慌ててそばに置いていた鞄に手を伸ばし、中からこれまた分厚い書類の束を取り出し、テーブルにどさっと置いた。