埼玉大学の宮崎雅人准教授(地方財政論が専門)の「地域衰退」(岩波新書)を読みました。
宮崎准教授は、長野県須坂市出身で県内の市町村をモデルに研究分析されていることから興味をもって読みました。具体的な基幹産業の衰退地域のモデルとして須坂市、王滝村、南牧村、旧産炭地を取り上げています。
まずは、地域がどのくらい衰退したかについて様々な指標を紹介しています。
少子化、人口減少率、昼間の人口減少率、労働力人口減少率など。
商店数減少率、失業率、課税対象所得の減少率、病院、医師数の減少率、高校の減少率、空き家率など。
これらの数字を見ると、地方創生の推進をしているが、この短期間で衰退を食い止めるには至っていないのが明らか。
次に、地域の衰退のメカニズムを具体例で説明します。
筆者の地元、須坂市を例に説明。
須坂市は、富士通の企業城下町であったが、2002年の須坂工場、長野工場の撤退による雇用減、市街地の衰退などを記している。
確かに、市内労働者の過半が富士通関係者であった時期もあり、製造品出荷額への影響は多きかったが、現在はかなり他の企業が育っていると認識。
特定の大企業を中心に地域経済が発展した企業城下町でのリストラ
は地域全体の衰退を招く。多様性に欠けた経済構造は脆弱。
地域衰退の事例をリゾート業や建設業でも論証。
これらの分析は、データと具体的な都市をわかりやすく説明されていて説得力十分。
この後の議論が問題。
宮崎説では、国の政策は、規模を大きくすることによって衰退を食い止めようと生産性の向上を狙ったものの、実は生産性が上がらず地域衰退に対抗できないと主張する。
逆に、規模の経済に基づく政策誘導が危機を深刻化させていると。
例えば、農業について、大規模化がコスト削減、効率化が進むかについて分析。
大規模化しても一定レベルで規模の経済の効果は頭打ちになる。
例えば、米づくりでは個別経営で7haで限界となる。
また、大規模化するほどコミュニティに悪影響を及ぼす。
大規模化が地域を活性化するという単純な図式は成立しない。むしろ衰退の可能性も。
筆者は、市町村合併にも言及、
これらを受けて、「地方創生」の問題点を明らかにしている。
「地方創生」による人口減少と地域経済縮小の克服を目指すが、実現可能性のないことから限界。
全国一律手法や外部委託など「表面的」施策という。
(感想)
宮崎准教授の主張はわかるが、
法に基づく施策であるから全国一律を意識するのは当然とも。
以前の国の施策から見ると、地域間競争であることは明らか。
地域格差を助長することにもなる。
コロナ後はさらに格差が広がるのではないか。(心配)
全体として興味深く読むことができました。
確かに、今後のキーワードは「小規模」ではないか。
全ての面で「地産地消」が求められる。
合理性だけでは割り切れないものが地方にはあるはず。
読みやすさの中に深いものが。一読の薦め。