「明日試合に行くから。」と息子が言った。
「??何の試合?」
「サッカーに決まってるでしょ。出るから。」
「??!!」
2日前から、サッカー部に体験入部していた。体力的にはキツそうだが、久しぶりにプレー出来て楽しそうにしていた。でも試合って…2年ぶりにボールを蹴り始めたばかりなのに何を言っている?
「明日の試合に来れる1年生は、試合に出してくれるんだって。1年生は6人くらい行くみたい。」
いやいや、そうは言ってもあなた。体育の授業が精一杯な状態で、試合に出るって…。
試合会場を調べてみると、遠くて交通の便が悪い場所。私も夫も仕事なので、試合会場まで送っていけない。グーグルマップで調べたら、我が家から自力で行くとなると、朝6時には家を出て電車移動して最寄り駅から徒歩50分。朝の吐き気でふらふらな息子には、どう考えても無理。
「6時出発だよ。無理でしょ。」
「いや、大丈夫。行く。」息子は強い目で私を見て言った。
こういう表情の時、息子は絶対に譲らない。は~、何という無茶を…。
息子の病気のことは、正式に入部したら顧問に話そうと考えていた。運動制限はないが他の部員より明らかに体力がないし、ケガの対応などのこともある。そのことを言うと
「明日自分で話す。」
…そこまで言うなら仕方が無い。頑張ってみなさい。
当日の朝、私の仕事のパソコンが立ち上がらなくなりアワアワしているうちに、いつの間にか息子は起きてきた。パソコンに向かって悪戦苦闘している私に
「準備できたから行くね。」
と言ってさっさと出ていきそうになり、慌てて追いかけて道順の確認をして見送った。顔色はまあまあ、吐き気は無さそうに見えた。
電車はいいけど徒歩50分。しかも坂道。大丈夫かなあ。考えていたら息子からLINEが。
「もう着いちゃった」時計を見ると、予定より30分も早い?
電話してみた。
「徒歩50分もかかんないよ。30分くらいだった。」
「まだ誰も来てない~。」
「歩いたら体調いい感じ。」
「散歩しながら誰か来るの待つわ。」
思った以上に体調は良さそう。無理しないように伝えて電話を切った。
がんの闘病がきっかけでクラブチームを離れた息子。私は「クラブチームを辞めた」ことを何となくマイナスに捉えていたけれど、息子にとってはプレーする場所よりも、プレーできる事そのものが大事なんだと気づいた。
出がけに見た息子の表情は久しぶりに明るかったし、電話の声は弾んでいた。
息子の隣にはいつもサッカーがあって、息子の力になってくれるだろう。
2年ぶりの試合、きっと上手くいかないことも多いだろうけれど、楽しんで欲しいな。ケガのないように。