2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム

 

日本糖尿病学会は 昨年9月に,『2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム』という声明を発表しました.

(C) 日本糖尿病学会

 

このアルゴリズムでは,『明らかに肥満型の糖尿病』と,『非肥満型の糖尿病』とをまず二分して考え,それぞれに対して 最初に投薬する薬(=第一選択薬)を例示しています.

このようにしたのは,同じ糖尿病でも,肥満型の糖尿病は(全員ではないにしても 多くの場合)インスリン抵抗性が主体であり,痩せ型はインスリン分泌不足型と,そもそもメカニズムが違うからです.

一般にインスリン抵抗性が主体の糖尿病では,インスリン分泌自体は多い(正常人よりも多い場合すらあります)ので,この人たちに さらにインスリン分泌を増強する薬を投与しても いい効果は望めません. インスリンが足りないことが血糖値上昇の原因ではないからです.
したがって,このアルゴリズムでも,まずインスリン抵抗性を改善する薬(ビグアナイド=メトホルミン)や,肥満を改善する薬(SGLT2阻害薬)を投与するよう勧めています.

一方,非肥満型の糖尿病では,一般にインスリン抵抗性は顕著ではなく,むしろインスリン分泌それ自体が弱弱しくて 血糖値の上昇を抑えきれない場合が多いのです. したがって,このタイプに対しては,インスリン分泌を増強する薬であるDPP-4阻害薬を最初に投与するよう推奨しています.

つまり2型糖尿病といっても,大別して2種の異なるタイプがあるのだから,それぞれに応じて 最初に投与する薬は異なるのだという,きわめて当然のことが書かれています.

以上は,日本糖尿病学会の発表ですが,それでは 投薬ではなく 食事療法ではどうなのでしょうか?
肥満型でインスリン抵抗性が主体の糖尿病の人と,肥満ではなく むしろやせ型で インスリン分泌が不足している糖尿病の人とでは,タイプは正反対なのに,食事療法はまったく同じでいいのでしょうか?

 

【以下は,日本糖尿病学会とは無関係に,単なる ぞるば個人の意見です】

 

2型糖尿病の食事療法のアルゴリズム

 

インスリン抵抗性が大きい人は,この例を見ればわかるように;

第63回 日本糖尿病学会年次学術集会 2P-57-4

 

糖負荷試験の結果ですが, 日本人離れしたとんでもない量のインスリンを分泌しています(~300μu/ml).この人の場合は 正常な日本人の2~3倍のインスリンを出しています. うらやましいほどです. つまりインスリンが不足して血糖値が上がっているのではないのです.このインスリン抵抗性の原因のほとんどは肥満です. 実際 この人はわずか2週間の減量プログラム(=超低カロリー食+運動療法)で わずかに体重が減っただけ(82kg→77.5kg)で,このようにみごとに血糖値が下がっています.

 

第63回 日本糖尿病学会年次学術集会 2P-57-4

 

そして ご注目いただきたいのは,血糖値は下がったのに インスリン分泌量は逆に減っている点です. 本来は 上の図ほどの大量のインスリンは必要なかったのですね. ただインスリン抵抗性が強いために,やむなく膵臓が全力を振り絞って 驚異的な量のインスリンを分泌して対抗していたのです.

したがって,この例でも明らかなように,肥満でインスリン抵抗性が主体の糖尿病では,なによりも肥満を改善することが効果的なのです.そして 首尾よく 肥満から脱却できれば,人並み外れて頑健な膵臓を持っているのですから,糖尿病は 『嘘のように治ってしまう』ことも可能です.

だとすれば,このタイプの人にもっとも適した食事療法は『痩せられる食事』,すなわち低カロリー食事療法です. とはいえ,常時 ひもじい思いをしては どこかで挫折してしまう(そしてリバウンドする)でしょうから,『満腹感のある低カロリー食』が最適でしょう. 具体的には みかけの体積(ボリューム)は多いけど,カロリーの低い食事,つまり野菜/きのこ/海藻[★]を主体とした食事です[低エネルギー密度食].もちろん人体に最低限必要なタンパク質,脂質は確保したうえでの話ですが.

[★]海藻: 高度肥満の人が痩せたい一心で,海藻だけを大量に食べ続けて 甲状腺機能低下症を発症した実例が報告されているので,注意が必要です.

一方,痩せ型でインスリン分泌がそもそも不足している糖尿病は上記とは正反対です. インスリンが絶対的に足りなくて,空腹時血糖値まで高い場合は,もはや1型糖尿病に近いわけですから,インスリン注射以外は手立てがありません. 

 

しかしそうではなくて,空腹時血糖値は全く正常で,ただ食後のみ激しく血糖値が上昇するのであれば(そしてそのためにHbA1cが高くなってしまうのであれば),『食後血糖値を上げない食事』が最適でしょう. 具体的には食後血糖値を上げる糖質を減らした食事,いわゆる『糖質制限食』となりますが,どれくらい糖質を減らせば,どれくらい食後血糖値を抑制できるかは人それぞれですから,個人毎にカスタマイズが必要でしょうね. 私の場合は,糖質と同時に摂る脂質の量で調整しています.

というわけで,あくまでも ぞるばの個人的見解ですが,『2型糖尿病の食事療法のアルゴリズム』はこうなります.