フランス、女性が人工妊娠中絶を選択する自由を憲法に明記、世界初 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 3月4日、フランスでは、憲法に女性が人工妊娠中絶を選択する自由を明記することを決定した。世界初のことである。

アメリカと比べて、フランスではキリスト教との関係はどうなっているのか。さらには憲法改正については、何度も実行しているフランスと、まだ一度も行っていない日本との比較も興味深い。

 

 憲法改正については仏憲法89条に定められている。改正案を提出できるのは、(首相の提案に基づく)大統領か国会議員である。国会の上下両院で可決された後に、国民投票による承認を経て確定する。ただし、大統領は、国民投票に代えて国会の両院合同会議(コングレ)の審議に付することができ、この場合には有効投票の5分の3の賛成によって改正が確定する。

今回は、後者の両院合同会議の議決である。コングレは、ヴェルサイユ宮殿で開かれることになっている。3月4日の投票では、780票vs72票の圧倒的多数で可決された。まさに圧勝であり、5分の3の多数を遙かに超えた。投票をテレビで視たが、議員が総立ちで拍手喝采している様子は壮観であった。

 

 フランスが人工中絶の権利を憲法に明記することを決めたとことに対して、カトリックの総本山ヴァチカンは、「人間の命を奪う『権利』などあってはならない」と懸念を表明し、生命の保護が絶対的な優先事項となるべきだと強調した。

 カトリックが多数派のフランスで妊娠中絶の自由を守ろうという機運がフランスで盛り上がった背景は、アメリカで、連邦最高裁判所が、2022年6月、妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決(ロウ対ウェード判決)を49年ぶりに覆したことである。

このような保守的な判決が増えたのは、トランプ大統領が在任中に連邦最高裁に3人の保守派判事を送り込み、過半数を保守派判事で占めさせたからである。

「キリスト教のアメリカ」では、妊娠中絶の自由を憲法に書き込むことはないであろう。もしトランプが大統領に再選されれば、強硬に反対することは確かである。

 

 これに対して、フランス革命の伝統を誇り、「自由、平等、博愛」を掲げ、それを三色旗の国旗にしているフランスでは、人権の擁護が最前線に出る。自由のための戦い、女性の健康、平等の実現などが国民の共通認識となっている。

 マクロン大統領は、今回の憲法改正は「フランスの誇り」であり、「普遍的なメッセージ」を送るものだと述べた。フランスでは、1975年に中絶が合法化されたが、世論調査では85%のフランス人が中絶の権利を憲法に明記すべきだと述べていた。

法律の合憲性を審査する憲法院は、中絶法に関して違憲だとの判断を下したことはない。

 

 20世紀以降のフランスのもう一つの原則は「政教分離」である。国家と教会を分離するという原則で、国や地方自治体の宗教予算は廃止され、信仰は個人の私的領域のものとなった。教会も国家から保護を受けることはない。徹底した政教分離の原則を守っている。

 このこともまた、妊娠中絶の権利を憲法に明記することに対する教会の介入を排除することにつながったのである。

カトリックのフランスと、プロテスタントのアメリカは全く違う国家である。