プーチンの誤算:フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの北欧4カ国の安全保障政策は多様であった。ノルウェーとデンマークはNATOに加盟し、フィンランドはロシアに配慮する政策を、そして両者に挟まれたスウェーデンは重武装中立政策を採用してきた。この微妙な均衡を「ノルディック・バランス」と呼ぶ。

 フィンランドは、ロシアとの陸続きの国境が1300㎞にわたる隣国であり、サンクトペテルブルクから目と鼻の先にある。1939年9月1日に勃発した第二次世界大戦は、その1週間前の独ソ不可侵条約の締結が前提にあった。ヒトラーとスターリンの密約であるが、ドイツとソ連は、ポーランドなど周辺諸国を分割して奪い取る作戦に出た。11月にはソ連軍がフィンランドに侵攻した。フィンランド軍は激しく抵抗したが、領土の10%を失って休戦した。しかし、独立を保つことができたのである。

 その経験から、第二次大戦後はソ連を刺激しないためにNATOやECに加盟せず、またワルシャワ機構軍にも属さなかった。その意味で中立であるが、ロシアへの配慮ということを「フィンランド化」という表現で西側が揶揄してきた。

 しかし、米ソ冷戦が終わると、フィンランドは、1995年にEUに加盟し、2000年にはユーロを通貨として採用している。その意味で、西側の一員にすでになっていたと言ってもよく、軍事的にもNATOとの協力関係を深めていた。

 そこに、今回のロシア軍のウクライナ侵攻である。「明日は我が身」という思いで、5月18日、フィンランドとスウェーデンのNATOに加盟を申請した。両国にとって、安全保障政策の大きな方針転換であるとともに、ヨーロッパの戦略環境も変化する。

 NATO加盟は、30の全加盟国の賛成がなければ実現しないが、トルコは反対を明言している。

 スウェーデンは、第二次大戦後は、1834年以来の中立政策をNATO寄りの中立という姿勢に変更したが、その傾向はソ連邦の崩壊後にさらに鮮明になった。フィンランドと同じ年にEUに加盟しており、NATOとの共同行動も増やしてきた。

 実質的には、中立政策はすでに放棄していたと言ってもよく、ロシアのウクライナ侵攻がそれをNATO加盟申請という形で明確化したのである。

 トルコのエルドアン大統領は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に反対している。

 クルド人がトルコにも少数民族として存在し、「クルディスタン労働者党(PKK)」を組織して、テロ活動を行っている。ところが、フィンランドやスウェーデンがPKKの活動家を支援しており、トルコはそれを許せないと言う。

 また、PKKを征伐するために、トルコは2019年にシリア北部に侵攻したが、それに対して、両国がトルコの武器輸出を禁止する制裁に加わったことも問題視している。

 これからはNATO内部での、様々な駆け引きが行われるであろう。

 ウクライナ戦争は、欧州の内外における新しい秩序の形成に繋がるのか。プーチンの誤算のツケは大きい。