菅直人vs橋下徹:浅薄なヒトラー理解を嗤う | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 立憲民主党の菅直人元首相が、橋下徹や日本維新の会を「ヒットラーを思い起こす」とツイートし、これに維新が猛反発した。

 ヒトラー研究者としては、第一次世界大戦後のドイツと今の日本を単純に比較するのは間違っていると言いたいし、橋下徹も維新も、ヒトラーやナチスとは「雲泥の差」があり、ヒトラーが今甦ったら、そんな小物と比べないでくれと一笑に付すであろう。

 第一次世界大戦に敗退し、ヴェルサイユ講和条約によって、領土を減らされ、巨額の賠償金を課されて、困窮する当時のドイツと、今日の日本とは全く違う。ドイツの屈辱的な状況を打破すべく、ヒトラーは政治家になる決意を固め、ナチス党を創建する。

 ナチスの25箇条の綱領の主な内容は、ドイツの領土を回復し「大ドイツ国」を実現する、ドイツ人の血を引く者のみをドイツ人とする(ユダヤ人から公民権を剥奪する)、徴兵制の復活、再軍備財閥の国有化など、ナショナリズムが盛り沢山である。そして、労働者や中間層に訴えるために、小企業の保護、貧困家庭の教育費国庫負担、幼年労働の禁止などをうたっている。

 このように、ナチスの政策は明確であるが、維新の政策は、他の与野党との政策とも多くが共通している。維新の目玉政策は、「大阪都構想」であるが、それは大阪市民によって葬り去られている。

 菅直人のツイートに対して、維新は立憲民主党に抗議し謝罪を求めた。菅の投稿の内容はともかく、抗議すべき対象は菅個人であり、立憲民主党という政党に抗議するのは筋違いである。

 夏には参議院選挙が控えている。ライバル政党の立憲民主党に抗議することによって、維新は選挙戦を始めたと解釈してよかろう。

 相対的安定期で経済が好調なときには、ナチスと共産党という左右の両極端の政党は退潮するが、1929年の世界大恐慌以降、経済が悪化すると、この左右の全体主義政党が躍進する。ドイツ国民の不満がそうさせたのである。

 今の日本は、政権党の自民党が退潮し、極右や極左の政党が跋扈するような状況ではない。橋下徹の弁舌の巧みさは皆が認めるところであろうが、何度も選挙を経験した政治家は皆演説は上手くなる。

 ヒトラー時代と現代との最大の違いはテレビその存在である。ヒトラーがナチスの勢力を伸ばしたのは、その街頭演説によってである。

 橋下徹くらい演説が上手い政治家は、日本にもヤマほどいる。どこが違うかというと、橋下にはテレビがついているということである。テレビの人気者としてスタートする、タレントとしてスタートする、それだけで政治家としては最初から大きな財産となる。テレビに出ている○○さんを観に行きたいというのが、大衆が街頭演説会場に出向く理由である。演説の内容などあまり関係ない。

 ヒトラーは「演説は書物より影響が大きい」と言ったが、今の時代は「テレビは演説や書物よりも影響が大きい」と言ったほうが正しいかろう。テレビを制する者が、世界を制するのである。

 橋下徹や維新は、その成功例であり、とくに大阪においてそれは顕著である。極論すれば、大阪では全テレビ局が維新の意向を忖度すると言ってもよい。維新は、大阪のメディア戦略で成功している。

 いずれにしても、菅直人・立憲民主党と維新の睨み合いは、日本の政治を刷新するためには、何の役にも立たない。