新たな感染症発生の場合、最も重要な作業の一つは、どのような症状が出るかというデータを蓄積し、広く公表することである。2009年の新型インフルエンザのときも、その努力を行った。
2009年5月22日の記者会見では、20日までに調査した大阪府69例の臨床情報について説明したが、神戸市のものとほぼ同様な結果であった。
5月22日には、17〜19日に関西を旅行した埼玉の男性(29歳)の感染が確認された。また、都内でも、やはり関西を旅行した25歳の男性が感染していることが分かった。都内3人目の感染者である。
このような事例は、関西への旅行の中止を招き、とくに修学旅行の中止・延期が大きな波紋を呼んだ。その数は22日時点で2001校にのぼった。関西の観光業界は多大な損害を被り、また中止する側もキャンセル料の負担に悩まされた。
25日には、門川京都市長は私を大臣室に訪ね、修学旅行だけでも約10万人がキャンセルし、宿泊施設の被害は約20億円にのぼっていると説明し、「過剰反応だ。国からも京都は大丈夫だと情報発信してほしいと」要請した。私は、国として協力することを約束した。
26日には静岡でフィリピンから帰国した7歳の男児の感染が明らかになり、27日には、和歌山市でも感染者が出て、感染は10都道府県に広がった。
一方、初の国内感染者が出た神戸市長の矢田立郎市長は、「市内のインフルエンザ患者は一つの高校にとどまっており、市内ではひとまず収まったものと思われる」として、「ひとまず安心」を宣言した。神戸市では、100人以上の感染が確認されたが、発症者は急激に減少してきていた。
ところで、この間の調査で、新たな事実が分かり、6月4日に発表させたが、それは、国内初の感染は5月5日であったということである。成田空港の検疫で初めて感染者が確認された5月9日よりも前に、すでに国内感染が広がっていたということである。
この患者は神戸市の男子高校生で、医療機関を6日に受診して簡易検査でA型ウイルスに陽性反応が出たものの、季節性インフルエンザとして治療し、完治していた。しかし、念のため検体を検査したところ、20日に新型インフルエンザと判明したとのことであった。この高校生には渡航歴はなく、感染経路も不明のままである。
このケースもまた、水際作戦無用論を力づけさせることになった。