舛添要一のヒトラー入門(5):§1.ヒトラーとの出会い②駒場時代・・❺ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『ユートピア』の著者、トマス・モアの生涯を戯曲化した作品、ロバート・ボルトの戯曲『すべての季節の男—わが命つきるとも』(Robert Bolt, “A man for all seasons”,1960)からの引用を続ける。

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ローパー:そのためならイングランドのあらゆる法律を切りたおします!

 モア:(腹を立て、激昂し)そうか?(ローパーに歩みより)では最後の法律を切りたおし、悪魔がふり返ってきみにおそいかかったら—どこに身をかくす、ローパー、いっさいの法律がたおれ伏しているのだぞ?(彼からはなれる)この国は、あますところなく、法律の森におおわれている—人間の法律だ、神の律法ではなく—もしその森を切りたおすならば—そうするのはきみしかおるまいが—そのとき吹きすさぶ風のなかにきみはまっすぐ立つことができると思うのか?(静かに)そう、わたしは悪魔にさえ法律の恩恵を与えるだろう、わたし自身の安全のために。

 ローパー:以前からそうだろうと思っていた。法律はあなたの偶像なのだ、あなたの神なのだ。

 モア:(疲れたように)ローパー、ばかだな、きみは。神こそわたしの神だというのに・・・(やや痛切に)しかし神はあまりに(非常に痛切に)とらえどころがない・・・どこにいたもうか、なにを求めたもうか、わからないのだ。

 ローパー:ぼくの神は献身を求めます、たえまなく、徹底的に、それだけです!

 モア:(冷淡に)たしかにそれが神か?—人身御供を求めるセム族の神のようだな。だが、それが神かもしれない—しかしわたしを追い求めるものがな、ローパー、神であろうと悪魔であろうと、わたしは法律の森に身をかくすだろう!娘もいっしょに連れて身をかくすだろう!娘をきみの船乗り主義のメーンマストに放りあげたりはしないぞ!船乗りはたくみに針路をくるくる変えるものだが!(「すべての季節の男—わが命つきるとも」小田島雄志訳、『現代世界戯曲集』、河出書房、1969年137〜138p)

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 学園紛争のとき、東大キャンパスが日本国の法律が適用されない「聖域」、つまり、文明とは無縁で野蛮な無法地帯と化したのを見た。これは、まさに「法律の森が切りたおされ」、風が吹きすさんで「まっすぐ立つことができない」状態であった。

 治安が保たれず、内ゲバでいつ襲撃されるかわからないという体験をしてみれば、そのジャングルのような状態がいかに危険であるかが分かる。「聖域」に機動隊を入れたなどと、安全地帯から批判するだけの知識人やメディアに、モアの「悪魔にさえ法律の恩恵を与える」という言葉の意味を考えてみよと言いたかった。