ヒトラーとトランプ(2):格差の拡大 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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    第二の論点は、格差である。2017年1月16日、国際NGOのOxfamは、世界で最も富裕な8人の資産額と、世界人口のうち所得の低い半分に相当する36億人の資産額が同じだという報告書を発表した。2016年は、前者の富豪数は62人であったので、格差がさらに進んだことになる。

 Oxfamは貧困と不正を根絶するための支援活動を行っている団体であるが、格差が「社会を分断する脅威」となるレベルにまで拡大していると懸念を表明している。トランプ大統領の誕生は、アメリカ社会の分断を世界に印象づけた。

 まさに、ポピュリズムの背景にあるのが、国内における格差の拡大である。経済的、社会的な格差が、先進諸国において拡大している。「丸太小屋からホワイトハウスへ」というアメリカンドリームは現実のものではなくなっている。

 格差の拡大が、既存の政治に対する幻滅をよび、その国民感情にトランプは訴えて勝利した。

トランプ現象の背景には、繁栄に取り残された白人労働者の群れがある。この問題に触れ、アメリカでベストセラーになったのがJ.D. Vanceの『Hillbilly Elegy:A Memoir of a Family and Culture in Crisis(ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された白人たち)』という本だ。

 ケンタッキー州・オハイオ州のアパラチア山脈地方、ラストベルト(錆び付いた工業地帯)で育ちながら、イェール大学のロースクールを卒業してアメリカンドリームを体現した著者(現在33歳)が、それまでの過酷な家庭環境や衰退するコミュニティについて記した回顧録である。

 「ヒルビリー」というのは田舎者の蔑称であり、「レッドネック(首筋が赤く日焼けした白人労働者)」とも「ホワイトトラッシュ(白いゴミ)」とも呼ばれるが、実は、彼らこそが「Make America Great Again(アメリカを再び偉大にしよう)」と訴えるトランプ候補を熱烈に支持し、大統領の座に押し上げたのである。

 アメリカンドリームとは、親の世代より経済的に成功し、社会の階級を上昇していくことをいうが、労働者階級の白人はその夢を持つことが出来ない状況であり、「白人の労働者階層は、ほかのどんな集団よりも悲観的だった」。そして、「アメリカのあらゆる民族集団のなかで、唯一、白人労働者階層の平均寿命だけが下がっている」という。

 1970年代以降、グローバル化に伴う国際競争力の低下によって、アメリカの製造業は衰退していった。1950年代のアメリカの繁栄は過去のものとなり、大量の白人労働者が解雇され、家族や地域コミュニティが崩壊し、ドラッグが蔓延した。そのような地方の白人労働者にとって、「アメリカファースト」を声高に叫び、「メキシコとの国境に壁を築く、不法移民を締め出す、雇用を創出する」と約束するトランプは救世主のように見えたであろう。