国際政治学講義(52):(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・⑬ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 ナショナリズムを克服する手段として、EUのような地域統合の試みがある。しかし、そもそも第二次大戦後に組織された国際連合こそが主権国家どうしの戦争を避けることが課題ではなかったのか。

 国連は戦勝国クラブであり、安全保障理事会の拒否権を持つ常任理事国は、英米仏中露の5カ国である。日本は、ドイツやイタリアとともに敗戦国であり、非常任理事国にはなれても、この特権的クラブのメンバーではない。

 戦後の国際秩序を特色づけるのはアメリカ陣営とソ連陣営の対立、つまり東西冷戦という図式であった。これは、1989年のベルリンの壁の崩壊によって終わったが、軍事的、イデオロギー的、経済的競争は戦後政治史の基調をなした。

 戦勝国クラブ、国連は、憲章に「旧敵国条項」が残っているように、敗戦国日本にとって使いやすい組織ではない。ドイツもイタリアも同様である。そこで、それに代わる組織として、先進国サミット、つまりG7が活用できる。

 この先進国サミットは、1973年の石油ショックに対応するため、1975年にジスカールデスタン仏大統領によって提唱され、今日まで続いている。西側の先進国、英米仏加日独伊(そしてEU)の指導者が集まって、世界の諸問題を議論する会議である。主として経済分野の話であるが、そのときどきの状況で政治問題にも言及する。

 日本がこのサミットの場に正規のメンバーとして参加することは、国連で果たせない役割も担えることを意味する。つまり、ここでは、英米仏と完全に対等な立場で政策形成に携わることができるのである。したがって、日独伊は、国連よりもG7の場を上手く活用することによって、戦後秩序の変更を実現させることができよう。

 しかし、ヨーロッパではイギリスはEUから脱退し、他のメンバー国も反移民、反EUを掲げるポピュリスト政党が勢力を伸ばしている。とくにハンガリー、ポーランド、チェコがそうであるが、この東欧に加えて、イタリアやスペインでも政治不安で同様な傾向が強まっている。この自国第一主義が引き金となり、EUでは遠心力が増しているが、それは世界におけるヨーロッパの力を殺ぐものであり、協力を求める日本にとっても好ましいものではない。

 地域統合を進めるEU、戦勝国クラブである国連の改革を求める日独伊の敗戦国、ナショナリズムを超克する道は容易ではない。トランプ政権のアメリカ第一主義は、その道をより困難にするものである。保護貿易主義がその最たるものである。中間選挙での勝利しか考えていないトランプ大統領に対しては、日欧で協力して立ち向かうしかない。