国際政治学講義(51):(4)20世紀の意味 ③ナショナリズム・・⑫ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 通貨統合したことによる問題はギリシャにとどまらない。イタリアとスペインは、最近政権が代わったが、同様な問題に直面している。

 イタリアでは、「五つ星運動」と「同盟」によるコンテ首相の大衆迎合主義政権が発足したが、反EUのこの政権がいつまで続くか、再選挙の可能性も十分にある。EUではイギリスが離脱し、その後もハンガリーやポーランドで反移民、反EUの勢力が政権につき、遠心力が強まっている。

 ポピュリズムのコンテ連立政権は、何十兆円もの支出を伴う最低所得保障などのばらまき政策を掲げており、これは財政規律を重視するEUと対立する。イタリア国債の利率は上がり、売りが殺到している。

 イタリアはドイツ、フランスに次ぐヨーロッパの大国である。欧州中央銀行(ECB)が保有する国債比率でも、この順である。何とかECBの買い支えでイタリア国債の暴落が阻止されているが、6月14日、ECBは、日銀と同様な量的金融緩和策を年内で終了することを決めた。

 統一通貨ユーロが実現したとき、私は、軍隊の統一よりも難しいと考えていた通貨制度統一を成し遂げたヨーロッパ人の努力を高く評価したものである。しかし、ギリシャの債務危機を見ても分かるように、経済力の異なるメンバー国で通貨を同一にする弊害もまた大きい。

 経済競争力が強いドイツでも、逆に弱いギリシャやイタリアやスペインのような国でも、ユーロ、そしてEUに対する不満が強まり、反EU勢力が選挙で台頭する背景になっている。

 イタリアで、かつて「北部同盟(「同盟」の以前の名称)」の選挙戦に同行したことがあるが、南部の貧しい地域とは異なり、別の国のような感じで北部地域の独立を唱えていたことを思い出す。ミラノとナポリでは全く政治風土が異なる。伝統的なイタリアの南北対立が解消したわけではない。

 スペインでも、汚職問題で中道右派の国民党ラホイ政権が倒れ、中道左派の社会労働党のサンチェス政権が誕生した。ECBの国債比率では、イタリアに次ぐ順位であるが、政情不安を受けてスペイン国債もイタリア国債と同様に売り圧力に晒されている。

 カタルーニャ独立問題に見られるように、スペインでは中央と地方自治州の対立の動きも強まっている。

 EUで遠心力が強まり、また個々の国でも言語や人種など様々な要因で遠心力が増している。ヨーロッパの動向は今後とも注視して行く必要がある。